今日は、太宰治の「一燈」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
今回は、貧者の一灯のことが題名になっている掌編小説です。現代で有名な人のたいていは、貧者ではない、と思うんですが、近代文学の魅力には、貧しさを偽りなく描き出せた人が居る、というところにもあるように思いました。
過去を美化するのは記憶力に問題があるからだ、とかいう格言を述べた人が居るらしいんですが、近代というのがどういう時代だったか知識が乏しい自分には、どうもこの時代が興味深く感じました。
最後の一文を読んでいて、どうも太宰治は時代を掴んでいるというか、その先の数十年間の未来に於ける異変のことが、なんだかしっかり見えているように、思えました。
おかしいまちがい 小川未明
今日は、小川未明の「おかしいまちがい」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
近代文学の特徴のひとつに、貧乏の描写が現代より色濃い、というのがあると思います。こんな記述があります。
夜は寺の縁の下にガタガタと寒さに震えながら、寝たこともあります。
旅をして、危険な貧乏におちいる男が書かれています。本文と関係ないんですけど漱石はイギリスに留学して、そこでなんだかおかしくなってしまったらしく、その留学を終えてからすぐに処女作を書きはじめたという実話があるらしいのですけど、旅をすると、違う世界が見えるだけじゃなくって、ちがう自分というのが現れてくるんじゃなかろうか、と思いました。
夜行巡査 泉鏡花
今日は、泉鏡花の「夜行巡査」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
泉鏡花といえば、流麗な文体で日本ならではの幻想を描く作家だと思うのですが、この代表作はまた赴きが異なっていて、江戸の心中ものというか人情もの、人情本の雰囲気がある、近代文学です。
八田巡査という若い男と、お香という女と、老夫。この3人が主要な登場人物です。
オチに心中文学や記事に対する、泉鏡花による短い批評が記されているように思ったんですけれども、作家の物語論が感じられて興味深かったです。
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追記
ちょっと今日は風邪をひいていて、何を読んでいるのか自分でよくわかりません……。
幸福 島崎藤村
トカトントン 太宰治
今日は、太宰治の「トカトントン」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
戦後に太宰は小説で、このように記しています。
何か物事に感激し、奮い立とうとすると、どこからとも無く、幽かに、トカトントンとあの金槌の音が聞えて来て、とたんに私はきょろりとなり、眼前の風景がまるでもう一変してしまって、映写がふっと中絶してあとにはただ純白のスクリンだけが残り、それをまじまじと眺めているような…………
戦争の危機が去ったあとに無気力にさいなまれていた主人公に対する、親戚の発言に、こういうのがあるんです。「お前は頭が悪いくせに、むずかしい本を読むからそうなる。俺やお前のように、頭の悪い男は、むずかしい事を考えないようにするのがいいのだ」
中盤で絵画や音楽の話しが挿入されるんですけれども、それがじつにみごとで……。それから泉鏡花の「歌行燈」のことも記していました。こんど読んでみようと思います。
それから政治に関する複雑な描写があるのですが、太宰治の経歴をwikipediaで読んでいると、15年戦争のはじまるころに、左翼運動をしてこれに挫折している。野間宏が描いた大長編の『青年の環』に登場する、特高に狙われた左翼青年のような人生があったようだ、というのを知りました。
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