黄金風景 太宰治

 今日は、太宰治の「黄金風景」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだかギョッとする内容のもので、幼いころの「お慶」さんというかつての女中への思いの遍歴が書きあらわされていて魅入られました。太宰が作家になる寸前と、戦中と、戦後の作風に得心がゆく掌編に思いました。ほんの数頁の作品なんですが、日本近代文学の代表的な私小説に思いました。
  

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  本作で引用している、プーシキンの言葉はこれは「ルスランとリュドミラ」という物語詩に記されたものです。
 

疲労 国木田独歩

 今日は、国木田独歩の「疲労」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは……とくになにも起きない人間関係を描写していて、未完の習作のように一頁ほどで途切れてしまう掌編小説です。
 

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(総ページ数/約2頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  推理小説の冒頭ではよくある不穏な人間関係の描写が展開するんですが、この小説ではなにも事件は起きないのでした。行き詰まりの予感と、不吉な気配で締めくくられる掌編でした。ちょっと未来のAIがこの先の話を書いたら、たぶん秀逸な推理小説が展開してゆくのでは、と思いました。
 

母 芥川龍之介

 今日は、母の「芥川龍之介」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  二十世紀の初頭に、日本人の2つの家族が上海に住んでいて、裕福な暮らしをしているはずなんですが、なぜか暗い気配がある。ふっくらと太った丈夫そうな赤んぼうを育てている隣家と比べて、顔色の悪い自分の赤ん坊のことが気になる母の物語なのでした。どういう話しか、分からない展開で、難読書かと思ったのですが、終盤に苦の正体が明らかになるのでした。不幸のあとの数日間の描写があって、この数頁の芥川龍之介の物語構築が印象深く、ふつうなら言葉にならない意識が記されていて、近代日本の純文学らしい作品だというように思いました。
 中盤と終盤に描かれるふくよかな赤ん坊は、無辜を象徴するような存在で、芥川龍之介の描いた「蜘蛛の糸」における「ある日の事でございます。御釈迦様おしゃかさまは極楽の蓮池はすいけのふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いているはすの花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色きんいろずいからは、何とも云えないにおいが、絶間たえまなくあたりへあふれて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。」というように描いた極楽と、この赤ん坊は近しい存在としてあるのでは、と思いました。
 放鳥、というこの小説が書かれた頃に日本から消えていった、文化のことが描かれるのでした。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 

程よい人 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「程よい人」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  自分で自分のことを、中道を歩む安定した男だと思っている主人公の話しなんです。日々の労働と借金と恋愛が、なぜか行き詰まってしまって、不幸が押しよせてしまう。
 中道を歩んでいるはずなのに、中途はんぱな悪い結果ばかりに至ってしまう、という人ごとに思えない不幸な男の話なんです。作中に「程好ほどよい」という言葉が15回も記されます。失敗が続いても、これが「程好い」という生きかたを頑なに捨てないところが妙に笑えてくる短編小説でした。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  現実が厳しい状態のばあいは、程好い対応というのを心がけていると、かえって危ないのでは、と思いました。
 

X氏の手帳 堀辰雄

 今日は、堀辰雄の「X氏の手帳」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 堀辰雄は1930年代に多くの小説を書いた近代作家なんですが、読んでみるとなぜだかついこのあいだ書かれたような小説になっているんです。堀辰雄は他の作品でこう記しています。
quomark03 - X氏の手帳 堀辰雄
  僕らの方向してきたものは新しい現実主義にほかならない。本当の現実主義は、僕らが毎日触れているためにもはや機械的にしか見なくなっている事物を、あたかもそれを始めて見るかのような、新しい角度と速度とをもって示すことにあるのだ。僕らの作品は一見すると、見知らぬもののごとくに奇異に見えるかも知れない。が、すぐ、それが僕らの日常生活の主題に過ぎないことを発見するに違いないのだ。そしてそれのみが僕らになし得るところの唯一の創造だ。僕らの現実主義と世間のいわゆる現実主義とを混同してはならぬ。「詩人も計算する」よりquomark end - X氏の手帳 堀辰雄
 
 ちょっと調べてみると本作を書くころに、コクトーやラディケをおもに読んでいたそうです。Tensegrity structureを目の当たりにしたような、不思議な感覚におちいる小説でした。
 

0000 - X氏の手帳 堀辰雄

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記   自然界から隔絶したものを平然と書けるというのが、食糧難が減退した20世紀中盤以降の資本主義社会から生じた話しだと思うんですが、堀辰雄だけが50年先の未来に生きていたのでは、と思うような小説を書いているように思いました。

蠅 原民喜

 今日は、原民喜の「蠅」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この短編は、事件らしい事件が起きない静かな小説なんですが、近代作家がまのあたりにしていた生が、かえってよく見えてくる記載があり、読んでいて好きになる小説でした。九十年ほど前に、この日本で、行き詰まりを感じつつ生きた二人の男女が描きだされます。
 途中でほんとうにどうでもいい蝿が、現れます。この時ちょうど、男は禅宗の本を読んでいたんです。坐禅に失敗をして警策の棒でパシンと叩かれて、妄想を払うことがあると思うんですが、男はなんだか自分の家のことよりも、目のまえの蝿のことが気になって、これを丸めた新聞紙で打ちつけた。短編なのでこのままで終わってしまう。これとほぼまったく同時代に哲学者のウィトゲンシュタインが、哲学とはなにかを説いて「ハエ取り壺にはまってしまったハエに、そこから抜け出る道をさし示すこと」だと述べて、哲学的な治療を試みていることを記しているんです。なんだか妙に気になる掌編小説でした。
      

0000 - 蠅 原民喜

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)