朝居の話 牧野信一

 今日は、牧野信一の「朝居の話」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 おかしなことをやり続ける画家と、その奇行をみまもる「僕」と「ソリにのってキャベツ畑を滑り降りてゆく」破天荒な妻という、ツッコミ役の居ない奇妙な3人を描きだした、短編でした。

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追記  絵を描き続けないと死んでしまいそうなくらい絵を描くことに熱狂している「朝居」は、ズボンを振り回しながら「泣いて、笑つて、はしやぎまはつて」絵を描こうとしている。「寝食を忘れて作画に没頭し」「三枚、五枚、八枚——と彼の画は出来て」ついに個展を開催するに至り…………。とくにオチも無く展開してゆく小説なのでした。

卑怯者 有島武郎

 今日は、有島武郎の「卑怯者」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 覆水盆に返らずというのか「零れたミルクをなげいてもしかたがない」ということがらを、小説にした短編でした。Ce qui est fait, est fait.「なされたことは、なされたこと」「なされなかったことは、なされなかったこと……」という、お話しでした。
 主人公は、幼子に感情移入して心を動かされたり、父親のように威厳のある態度でことに望もうとしたり、さかんに逡巡をしつつ惑っているところが印象に残りました。
 

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追記  自分で自分のことを卑怯者! と述べるというのは意外な記載で驚きました。この小説を書いた有島武郎が、農場の解放をおこなって小作料の徴収を辞めるという改革を時代に先駆けて行ったのだ、と思いました。この短い掌編にも、氏の思想信条が垣間見えるように思いました。本作は、同時期に発表された魯迅の「些細な事件」(1919)とのなんらかの関連性があるのでは、と思いました。

真夏日の散歩 原民喜

 今日は、原民喜の「真夏日の散歩」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「八月の熱と光が街を包んでゐる」という一文が印象に残る、原民喜の短編を読んでみました。
 原民喜は平穏な作品も含めて、どれを読んでも唸ってしまう、すごい作家だと思うんですが、今回のは掌編というのか超短編です。
「八月の熱と光が街を包んで到る処の空間が軽い脳貧血を呈して」いる。「彼は見えない一つの糸に牽かれて、死にかかった身体を無理にひきずって歩いてゐた。」と書かれています。おそらく1946年かそののちに書かれた短編だと思います。

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★ 原民喜の代表作「夏の花」を読む。
 
追記  「顔が仮面のやうになってしまって、毀れものを運ぶやうにおづおづと身体を動かして」いる男のことを描きだした文学作品です。酷い苦の中にあっても、平穏無事に煙草を吸っていたころの記憶をたどって男は煙草を一本、吸ってみたいと思い、友人の「私」に煙草をもらいます。彼は「たった一本の煙草をさも重たげに指に挟むと、非常な努力を以て、それを吸はうとするのだった」と記されて、ありました。なぜこの小説は、あまりにも短くなってしまったのか、分からないので調べてみたのですが、執筆時期も発表年も分からず仕舞いでした。
 
原民喜の本をはじめて読む場合は「広島文学資料室」の原民喜の頁をまずご覧になることをお勧めします。

働く町 夢野久作

 今日は、夢野久作の「働く町」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 夢野久作の代表作は極端に異質で怖ろしい作品なんですが、今回のは短い童話です。あるすてきな町に、一流のお医者さんが訪れる、という話しなのですが……。
 

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追記  医者が荒れ地に水路を造って、ほんとうに医を実現した、という別の時代の作品のことを思いだしました。

市井喧争 太宰治

 今日は、太宰治の「市井喧争」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは太宰治の、日々の暮らしの中で起きたちょっとした諍いのことを書いていて、押し売りに薔薇を買わされたけれども、あまりにも高すぎる値段で「私自身の卑屈な弱さから、断り切れず四円まきあげられ、あとでたいへん不愉快な思いをした」ということの顛末を描きだした小説です。太宰治は事実っぽく架空の話を書くことが多いので、どこまで事実の描写なのか分からないのですが、作中の「嘘」と「偽物」という言葉の置き方がなんだか美しいというのか、妙に印象に残る掌編小説でした。農民ではないのに農民という嘘を言った、と太宰治は考えつつ、近くに住む農家の女性だったら、ちょっと高くても薔薇を買ってあげたいと思った、ようなんです。
 

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追記  作中に記された「贋百姓の有様を小説に書いて」というのは翌年の1940年に発表された『善蔵を思う』という別の短編小説にて描かれています。
 

石窟 田山録弥

 今日は、田山録弥の「石窟」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 田山録弥というのは田山花袋のことで、これはほんの数ページの小説です。画家と作家の2人が登山をしています。山奥のほら穴のなかに、無数の仏像が隠されていたのを偶然にも発見する場面が描かれます。
 

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追記  山奥の巨大な岩をくり抜いて洞穴を作り、そこに大量の仏像を彫った人間の仕事をまのあたりにして衝撃を受ける、画家と作家なのでした。千年以上前につくられた彫像の群に圧倒されるのでした。2人はこの千数百年前の無名の仏師の、たいへんな仕事に震えあがり思わず落涙します。帰路につきながらも、呆然とし続けたのでした。