愛撫 梶井基次郎

 今日は、梶井基次郎の「愛撫」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは梶井基次郎の代表的な短編で、すぐそばにいる猫のことを描いています。きわどい空想のことを書いているのが印象に残ります。猫の手はパフのように柔らかかったり、肉を引き裂くような爪が隠されていたり、毛並みが美しすぎたりするのだ、と思いました。
 

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追記  ヒューゴ・シンベリが描きだした、傷つきうなだれた天使をなんだか連想する、爪をすべて奪われてしまった猫のことが、すこし記されてありました。

河童 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「河童」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 芥川龍之介の代表作を読んでみました。
 主人公の「僕」と「彼」は、河童を発見し、その社会の構造を詳細に語りはじめるのでした。
 現実と架空の混ぜ方がなにか、メタ的というのか、超越的というのか、独特な構造になっているように思いました。河童の文明を解析し、河童の使ってきた古来からの文字を読解したりするのでした。本文こうです。

  河童の使う、ちょうど時計とけいのゼンマイに似た螺旋らせん文字が一面に並べてありました。この螺旋文字を翻訳すると……
 さらに、河童と人間の混交に於ける社会問題について双方から考察し、制度や人生観の改善を志したり、河童と人間との、思想信条の差異を論じたりするのでした。
 芥川龍之介が本作の原典としたのは、ニーチェの超人思想であり、このことは本文にも明記されています。哲学的で思想書的な物語作品でした。作中の箴言の中ですてきだなと思ったのはこの一文です。「もっとも賢い生活は一時代の習慣を軽蔑けいべつしながら、しかもそのまた習慣を少しも破らないように暮らすことである。」おもしろくて、やがてもの悲しさがあふれてくる、芥川龍之介の告白の書に思いました。
 

『河童』登場人物一覧 ※詳細はクリックで表示されます。

主要な人物
「彼」:語り手。精神病院の患者。河童の国での経験を饒舌に語る。
S博士:精神病院の院長。「彼」の告白を聞く立場。
「僕」:『彼』の話を聞き、記録した語り手。『河童』という作品全体を読者に提示する立場。

河童の国の住人
バッグ:漁師。最初の友人で案内役。雌の河童に執拗に追いかけられている。
チャック:医者。鼻眼鏡をかけた物質主義者。独自の医学的見解を持つ。
ゲエル:硝子会社社長。巨大な腹を持つ大資本家。政界やメディアも支配する。
ラップ:学生。家族や恋愛の悩みに翻弄されるうちに、その身に異変が訪れるが……。
トック:詩人。「超人」を自称し芸術の自由を説くが、その内面には孤独を抱えており……。
マッグ:哲学者。『阿呆の言葉』の著者。七色のランタンの下で分厚い書物を読み耽る。
クラバック:音楽家。情熱的な天才だが、ライバルの影や批評に激しく神経を病んでいる。
ペップ:裁判官。河童の国の「文明的」な法律を説く。
クイクイ:新聞社社長。労働者の味方を標榜するが、実はゲエルの支配下にある。
ロッペ:政治家。正直を標榜するクオラックス党首。
長老:大寺院の主。数々の聖徒を案内するが、その信心の裏側には……。
グルック:元郵便配達夫。かつて「僕」の万年筆を盗むが、驚くべき理屈で無罪を主張する。
年をとった河童:若返りつづける老人。この国に倦んだ「僕」へ、ある重大な示唆を与える。
トックの雌の河童:トックの同棲相手。 
(登場人物一覧はAIがまとめて、人間が修正したものです)

 

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追記はこちら。クリックで表示されます。

 「河童」は、おおよそ100年前の近代の日本文化をのぞき込むための教養の書としても読めますし、ジョージ・オーウェルの「動物農場」に匹敵するのでは……というような作品だと思います。ユーモア小説としてみごとな近代小説なのでは、と思います。
 これはぼくは10代の頃にちょっと読んだんですが、読解を試みたのは初めてで、細部まで読んでみると2つのことが気になりました。
 まず「彼」と「僕」に名前が無いというところで、数字の号数で呼ばれたり「彼」とのみ呼ばれたり、個性豊かな登場人物なのに、名前が持てていないのがなんとも妙に思いました。
 それから「僕」と「彼」というのが、伝統的な文学で重んじられている「信用できない語り手」であるのも印象深いです。現実的な描写の中に、存在しないはずの河童が登場するわけですが、これが完全な幻覚なのか、それとも何か不思議なものを代替した記載なのか、分からないんですが。ただの幻覚にしてはあまりにも仔細で正確すぎる描写なんです。なんだかユーモラスな幻想小説のような描き方です。しかしじっさいには、語り手である「僕」は、楽しい幻想を送りとどけたい娯楽的な話者では無いわけです。そうすると現実的な事態だけを描いている演劇空間の中に、急に3DCGで河童が出てきたようなことになって、話者の「僕」の言いたいことがいったいなんのか、まったく分からなくなります。これが記された、1927年のほんの18年後の日本では数多くの戦死者を出し、暗い事態もあまたに起きたたわけですが、そのことを明瞭に予感している芥川龍之介の鋭い予測に則った世界描写に衝撃を受けました。
 終盤は、ジョナサン・スウィフトの「ガリバー旅行記」の記載に良く似ている、2つの世界を行き来する主人公が描きだされていました。

睡蓮 横光利一

 今日は、横光利一の「睡蓮すいれん」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは横光利一にそっくりな「私」が「けやきや杉の森」に囲まれた下北沢の静かなところに家を建てて、さらにその数年後に近所づきあいがはじまった隣家の「高次郎氏」の一生を描きだした文学作品です。
 昭和初期の剣客であり刑務所の看守の仕事をしていた「堂々とした立派な風貌ふうぼうせいも高」い高次郎氏はどういう人物だったのか、そのことを淡々とした筆致で記している静かな小説でした。なんというか男から見てもすごい良い雰囲気の男が、急に自分の家の近くに住みはじめて、会うたびに気分が良いし、興味も惹かれる………………起承転結のみごとな小説でした。
 

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追記  表題の「睡蓮」というのは、刑務所の中にある池に植えられたもので、場所を選ばずに美しく成長する、この植物について氏が記していたものです。植物は自分の境遇というのを知らない。知らないまま動じることもなく生きるこの「自然の偉大さ」に打たれた、という氏の著述が印象に残りました。

傲慢な眼 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「傲慢な眼」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだかすごい短編で、他人を鋭くにらみつける不器用な画学生と、お金持ちの令嬢の2人の親交というか対立というか……2人の関わりが描きだされる昭和初期の文学でした。坂口安吾は激しい人間性を描きだすことが多いと思うのですが、今回は静かな展開の、素朴な物語でした。
 

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追記  あまりにもすてきな掌編だったので3回くりかえして読んでしまいました。大人びた女性が、中学生の男子と恋愛をするというのは当時も今もどうも破格なのでは、と思いました。
 

ねむい アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「ねむい」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 現在と過去、夢とうつつ、生死、苦と安寧、善と悪、といったものが混然一体となって混じりあった文学空間が、赤ん坊の揺りかごを揺らす少女ワーリカを中心に展開されます。
 

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追記 そういえば「眠る」というのは睡眠と逝去の2つの意味を持つわけで、これはロシア語であってもそうなんだろうと思いました。最後の頁の次の空白に記されたはずの展開を、空想させられるような、みごとな終末の数行でした。

可愛い女 アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「可愛いひと」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはチェーホフの奇妙な名作で「オーレンカ」という少女が成長して、良人と暮らしはじめ、なにごとにも夢中になって、近しい人とどこまでも添い遂げようとする、けなげで可愛い姿が描きだされる、近代ロシアのみごとな物語なんです。
 

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追記  ここからはネタバレとなりますので、近日中に読了する予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。不幸つづきで二転三転あっても、オーレンカはずっと「可愛い女」のまま、新たな良人に熱い思いを抱きつづけるという不思議な生きかたを続けるさまが描きだされる物語でした。オーレンカは好きになった人に、すぐに影響を受けてしまうのでした。本文にはこう記されています。
「オーレンカはすっかり彼に恋してしまったのみか、それがまた一通りや二通りの慕いようではなく、その晩はまんじりともせずにまるで熱病にでもやられたように心を燃やし身を焦がし、朝になるのを待ちかねて……」
 中盤の、不幸なできごとからすっかり立ち直ってしまう展開があまりにもみごとで、惹きつけられました。
 おばあさんになっても、他人の子である「サーシャ」を自分の住まいから学校へと送りだすことに、熱中して夢中になっているという、かわいい性格が度を過ぎているオーレンカが描きだされる、チェーホフの魅力あふれる小説になっていました。