睡蓮 横光利一

 今日は、横光利一の「睡蓮すいれん」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは横光利一にそっくりな「私」が「けやきや杉の森」に囲まれた下北沢の静かなところに家を建てて、さらにその数年後に近所づきあいがはじまった隣家の「高次郎氏」の一生を描きだした文学作品です。
 昭和初期の剣客であり刑務所の看守の仕事をしていた「堂々とした立派な風貌ふうぼうせいも高」い高次郎氏はどういう人物だったのか、そのことを淡々とした筆致で記している静かな小説でした。なんというか男から見てもすごい良い雰囲気の男が、急に自分の家の近くに住みはじめて、会うたびに気分が良いし、興味も惹かれる………………起承転結のみごとな小説でした。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  表題の「睡蓮」というのは、刑務所の中にある池に植えられたもので、場所を選ばずに美しく成長する、この植物のについて氏が記していたものです。植物は自分の境遇というのを知らない。知らないまま動じることもなく生きるこの「自然の偉大さ」に打たれた、という氏の著述が印象に残りました。

傲慢な眼 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「傲慢な眼」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだかすごい短編で、他人を鋭くにらみつける不器用な画学生と、お金持ちの令嬢の2人の親交というか対立というか……2人の関わりが描きだされる昭和初期の文学でした。坂口安吾は激しい人間性を描きだすことが多いと思うのですが、今回は静かな展開の、素朴な物語でした。
 

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(総ページ数/約15頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  あまりにもすてきな掌編だったので3回くりかえして読んでしまいました。大人びた女性が、中学生の男子と恋愛をするというのは当時も今もどうも破格なのでは、と思いました。
 

ねむい アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「ねむい」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 現在と過去、夢とうつつ、生死、苦と安寧、善と悪、といったものが混然一体となって混じりあった文学空間が、赤ん坊の揺りかごを揺らす少女ワーリカを中心に展開されます。
 

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(総ページ数/約15頁 ロード時間/約5秒)
 
追記 そういえば「眠る」というのは睡眠と逝去の2つの意味を持つわけで、これはロシア語であってもそうなんだろうと思いました。最後の頁の次の空白に記されたはずの展開を、空想させられるような、みごとな終末の数行でした。

可愛い女 アントン・チェーホフ

 今日は、アントン・チェーホフの「可愛いひと」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはチェーホフの奇妙な名作で「オーレンカ」という少女が成長して、良人と暮らしはじめ、なにごとにも夢中になって、近しい人とどこまでも添い遂げようとする、けなげで可愛い姿が描きだされる、近代ロシアのみごとな物語なんです。
 

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  ここからはネタバレとなりますので、近日中に読了する予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。不幸つづきで二転三転あっても、オーレンカはずっと「可愛い女」のまま、新たな良人に熱い思いを抱きつづけるという不思議な生きかたを続けるさまが描きだされる物語でした。オーレンカは好きになった人に、すぐに影響を受けてしまうのでした。本文にはこう記されています。
「オーレンカはすっかり彼に恋してしまったのみか、それがまた一通りや二通りの慕いようではなく、その晩はまんじりともせずにまるで熱病にでもやられたように心を燃やし身を焦がし、朝になるのを待ちかねて……」
 中盤の、不幸なできごとからすっかり立ち直ってしまう展開があまりにもみごとで、惹きつけられました。
 おばあさんになっても、他人の子である「サーシャ」を自分の住まいから学校へと送りだすことに、熱中して夢中になっているという、かわいい性格が度を過ぎているオーレンカが描きだされる、チェーホフの魅力あふれる小説になっていました。

 

木の子説法 泉鏡花

 今日は、泉鏡花の「木の子説法」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 能と狂言を見にゆく「私」が目撃した「お雪」と家族と詐欺師たちの、滅びの物語が描写されます。朽ちた大地にはえてくる毒々しいキノコの世界を描きだし、そこに人間の骸を重ね合わすように描写していて、人間たちの滅びと陰気な生命感が描きだされる、重厚な文学作品でした。困窮から抜け出すことが叶わなかった母子の物語と、歴史的な災禍と、朽ちた大地に立ち現れる毒茸の描写と、貧すれば鈍する詐欺師たちの破滅とが、能と狂言と小説の構成で描きだされる多層的な物語でした。

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  ハッピーエンドからほど遠い終わりかたをするのですが、なぜか人情や美が表出してくるところが、泉鏡花の独特な文学性なのでは、と思いました。泉鏡花は「綾鼓」がいちばん好きな能楽だったのでは?と思いました。
 

漁師 フィオナ・マクラウド

 今日は、フィオナ・マクラウドの「漁師」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 山あいにある「青々した草原」を通り「楊の谷」の「河ふち」に至ると、そこには、なぜか悲しげな眼をした「猟師」がいて、おばあさんと出会い、すぐに去ってゆきます。作中で、この地について、印象深い記載があります。
quomark03 - 漁師 フィオナ・マクラウド
 山々のかげのくらい沢水に寂しく潜んでる鮭は深い海の音をききつけて、塩のこいしさに舌をあえがし、鰭ひれをふるわし、時が来て海が呼んでるのを悟る……quomark end - 漁師 フィオナ・マクラウド
 
 おばあさんは、この地で、不思議なものをみたと、息子のアラスデルに語るのでした。ケルト神話と太古の世界を描きだす、静謐な短編小説でした。
 

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(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  以降、ネタバレとなりますので、数日以内に読み終える予定の方は本文を先に読むことを推奨します。天寿をまっとうするときに魂をもらい受けに来る、天界への案内人のような「漁師」というのが描かれた物語で、おばあさんはこの、悲しげな眼をした、たましいの猟師と偶然のように出会うのでした。そのすぐあとに、自宅の炉ばたの椅子に座ったまま、おばあさんは痛みもなく身罷ります。これを見届けた息子のアラスデルのもとへ、「猟師」がやってきてこう告げるのでした。
「別れに言う、平和におくらしなさい、善良なたましいよ、平和におくらしなさい……」