細雪(68)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その68を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 十年くらい前に「細雪」と言えば「蛍狩」の場面がもっとも風雅であるというような話しを聞いた気がするんですが、今回はこの、姉妹たちの蛍狩りが描かれた章でした。
 いっけん蛍は居ないように思えたのですが、川の奥のほうへゆくとあまたに現れます。この場面がやはり「陰翳礼賛」と日本の美を描き続けた文豪の、名文だなというように思いました。「細雪」を全文読む時間が無いという場合は、本章だけを読むのも、谷崎文学の魅力が分かる方法かなと、思いました。
 

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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記 谷崎は近代作家の中ではもっとも都会的で国際的な作家だと思いますし、女性や人間関係を描くことに注力している文学性なので、自然界を観察して記すというのは珍しい事態に思います。夢のように雅な光景でした……。その蛍狩りを終えたあとの、3人の姉妹たちの、深夜の寝姿の描写のほうがなにかこう、日本画を観察するような魅力的な描写にも思いました。あらゆる技法を極め尽くした鏑木清方であっても、暗がりの女性を描くことは不可能だったわけで、日本画では描ききれない陰翳のなかに佇む姉妹の美を描けたのが、この細雪の本章なのでは、と思いました。

世はさながらに 三好達治

 今日は、三好達治の「世はさながらに」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 在原業平がかつて恋人だった藤原高子の住んでいた屋敷を訪れて、時の流れに取りのこされたような感覚をもった。そのような「私」と、世界の変転と、常しえの時間について思いを馳せた和歌「月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」を発句として三好達治が自宅のそばにある自然界を観察し「もののあはれ」を詩に描きだした作品です。「こぞの春」というのは「ちょうど一年前の春に」という意味です。「これやこのこぞの長椅子」という詩の一節が、なんだか印象に残ります。今の最先端の音楽でもこれは歌い直せるのでは、というような日本らしい日本の歌というように思いました。
 

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パウロの混乱 太宰治

 今日は、太宰治の「パウロの混乱」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 太宰治といえば、イスカリオテのユダがどのようにキリストを裏切ったのか、その時の心情とはどういうものだったのかを描いた小説「駈込み訴え」が有名なのですが、今回はパウロとはどういう人間だったのか、文学的な物語読解を試みています。太宰は、自分の弱さを重んじているパウロを描きだします。苦難のなかでこそキリストの教えにかんする理解を深められるのだと考えたパウロに共感し、この箇所を饒舌な筆致で書き記していました。
 

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追記 太宰の聖書読解と、聖書の原典とをちょっと比較してみました。作中に、パウロが群衆に謝罪をして混乱に至ったという箇所があるのですが、ここがどうも太宰独自の空想的な脚色であるようです。本文のパウロに関するこの記載の部分……「おしまいには、群集に、ごめんなさい、ごめんなさいと、あやまっている。まるで、滅茶苦茶である。このコリント後書は、神学者たちにとって、最も難解なものとせられている様であるが、私たちには、何だか、一ばんよくわかるような気がする。高揚と卑屈の、あの美しい混乱である」
 じっさいの聖書のパウロは、群衆に「ごめんなさい」と謝る箇所は存在していませんでした。ここが太宰治の物語創作におけるの空想的描写に、なっていました。

「自然」を深めよ 和辻哲郎

 今日は、和辻哲郎の「自然を深めよ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 和辻哲郎といえば、仏教や神道の思想を研究した人かと思っていたのですが、こんかいは、日本の自然主義文学に関する問題を論じています。和辻氏によれば「自然主義は殻の固くなった理想を打ち砕くことに成功した。しかし代わりに与えられたものは、きわめて常識的な平俗な」ものだけを見出したのであって「昔から数知れぬ人々が腹のなかで心得ていた」ものを目の前で見せただけだった。
 では、芸術に於ける自然とは、いったいどういうものなのかを、ここから論じはじめています。
「生」と同義にさえ解せられる所の「ロダンが好んで用うる所の」「人生自然全体を包括」した「我々の感覚に訴えるすべての要素を含むとともに、またその奥に活躍している」つまり生命そのものを描きだす芸術というのが、自然主義の魅力である。
 近代日本に於ける自然主義文学の批判を行いつつ、自然の魅力を描き出せた芸術家としてロダンを複数回あげていました。では物語の描写で、どのように自然の魅力を描き出せるのかというと……。和辻哲郎は、とにかくドストエフスキーがこの近代作家たちから遠く隔たって抜きんでていて、ドストエフスキーこそが人間の自然を最も深く見極めた希有な作家であり、「人間の自然」を「異様な圧力を与え」つつ示しきったのが、「カラマーゾフの兄弟」をはじめとした氏の文学であると論じていました。ドストエフスキーの「母なる湿潤の大地」の描写を彷彿とさせる評論でした。
  

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雪雑記 中谷宇吉郎

 今日は、中谷宇吉郎の「雪雑記」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 古い時代の自然科学の研究について記してある随筆で、雪の結晶を研究してこれを撮影し、とくに雪の側面を克明に捉えた中谷宇吉郎氏の写真が、英国で注目されたということが書かれています。それからジョージ・クラーク シンプソンという気象学者との関わりのことも記していました。さらに中谷宇吉郎氏は、人工雪を研究したり、雪をきれいに割って断面を調べるという研究を始めたことが記されていました。
 

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寝ぼけ 夢野久作

 今日は、夢野久作の「寝ぼけ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 夢野久作といえば日本三大奇書ともいわれる「ドグラ・マグラ」が有名で、ぼくはこれを十年くらいまえ最後の頁まで読んだことがあるのですが、氏の作品をいくつか探してみると、意外とみじかい児童小説をたびたび書いています。今回は、夢野久作の奇書のなかでも、かなりの掌編で内容が……寝ぼけまなこで書いたような作品で、ほぼ内容が見当たらないという、なんだか見たことの無い奇書になっているように思いました。
 

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追記  夢野久作という作家名は、福岡の方言で「夢見がちな人間」という意味だそうで、氏は悪夢をとくに好んで描きだしたと思います。夢の中の感覚を巧みに捉えて、小説や映画ではありえないような、断片的で尻切れとんぼになって曖昧模糊としてとりとめのない物語展開が今回、実験的に記されたのでは、と思いました。