今日は、ボードレールの「人工天国」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
ボードレールは詩人ランボーにも深い影響を与えた作家でまた批評も盛んに記していて、難読の文体が特徴の詩人だと思います。今回は親しい女性にあてて書いたもので、この掌編は、一般的な読者を想定して書いたものではなく、ボードレールはそのほとんどの文を、死せる者に捧げて書いていると、記しています。本文にはこう書いていました。
「私は生きて居る世界には実に興味が無い……(略)……私は好んで死人のためにのみ書くのである。 しかし、私がこの小著を献げてゐるのは、死んだ女ではない。それは、病んでゐるが、いつも私の中に生き生きと」……した姿でいる彼女にたいして記している。ここから詩的な隠喩に満ちた文体で、あいまいで神話的なものごとが記されてゆくのでした。前半は随筆のようにものごとが記されるのですが、後半はギリシア神話をえがきだす、ひとつの詩になっているように思いました。
作中に記された、オレストというのはこれは、ホメロスの叙事詩「イーリアス」にも登場したギリシャ神話における悲劇的人物オレステースのことです。wikipediaには「ギリシア軍の総大将アガメムノーンの息子」で「子供の頃に母クリュタイムネーストラーとその情夫アイギストスによって父アガメムノーンを殺され、自身も命を狙われるが、姉エーレクトラーの手引きで脱出する。」と記されています。
熱のために色褪せたかれの唇を冷した遙かなるエレクトラの方へと送つて居る一個の陰鬱な孤独な散歩者を見るであらう。そしておんみは、おんみがしばしば彼れの悪夢を看護り、おんみが軽やかな、母のやうな手で恐しい夢を彼から追ひ却けた或る一人のオレストの感謝となるであらう。
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