大恩は語らず 太宰治

 今日は、太宰治の「大恩は語らず」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 婦人公論のNさんが太宰治の家にやってきて「恩讐記といふテエマで數枚」書いて欲しいというのでした。本文こうです。

  手紙でお願ひしたら、あなたは、きつとお斷りになるだらうと思ひましたから、ですから、私がけふお宅へお願ひにあがつたのです。恩は、ともかく、讐あだなんて、あまり氣持のよいものでは無いのですから、テエマにあまり拘泥せず、子供の頃、誰かに毆られて、くやしかつたとか、そんな事でもお書きになつて下さつたら、いいのです。
 
 手紙だけだとどうしても伝わらないことを、わざわざ対面で話しに来た、というのが良いなあと思いました。軍部による発禁と廃刊が相次ぐ、昭和十五年の出来事でした。「大恩は語らず」と言うのですが、そこは他作で、太宰治が書きそうなところのような気もしました。
 

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追記 「忠臣藏だつて、考へてみると、へんなものですよ」というあたりで、ほんとにそうだなと、思いました。

追記2 現在、電子書籍のバージョンアップ改良版を制作中で、更新がすこしだけ、とどこおっております。また現在、photoshop2025をついに廃棄して最新版のPhotoshopを使用開始したため、このため、更新がすこしだけ、とどこおっております。

防寒戸 中谷宇吉郎

 今日は、中谷宇吉郎の「防寒戸」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは戦後になってから、古い時代の北海道の家作りのことを回想した随筆です。科学者の中谷宇吉郎と建築家オー君の2人で防寒戸をしっかり備えた家を設計したのでした。「簡単に言えば、保温の原理を物理的に忠実に守ったというだけに過ぎない」のですが、じっさいに作って暮らしてみると、厳冬の寒さを防げるということでかなりの人気になって、いろいろな見学者が、中谷宇吉郎の家を見に来ることになった。建築家O君はこれでしっかり儲けて出世して「住宅会社の活躍と相まって、みるみるうちに、千八百軒建った」そうです。
 いま読んでみると想定外なのは、寒冷地では雨戸は凍りついてしまって厳しいのだけれども、ふすまのようにじつに簡単なモノでも、2重にするだけで防寒にかなりの効果がある、という科学者の指摘が面白かったです。
 これは現代でもじゅうぶん参考になる話しで、パスワードは2重にしたほうが良いとか、魅力的だけれども怪しい情報は、いったん寝かせてから二段階で再確認してみたほうが良いとか、いうように思いました。
 

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追記  今回は科学の話しと言うよりも、技術の話しだなと思いました。そういえば、論理哲学者のウィトゲンシュタインも技術に長けていて、自分で家を設計して建てたりしていたのでした。

二人の弟たちへのたより 宮本百合子

 今日は、宮本百合子の「二人の弟たちへのたより」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは戦争に召集されてしまって今どうしているのか分からない二人の弟に対して、書いた手紙です。
 宮本百合子の夫は、十五年戦争を否定し批判し続けた宮本顕治氏です。作中にも記載されている弟さんは戦争に召集されて広島に滞在中に、原爆で亡くなられています。
 この宮本百合子の手紙は1940年初頭に書かれたものです。特高からの妨害を避けるために、故郷の今を伝えるだけに留めているところがあるように、思います。
「泥濘のなかを」という文章が印象に残りました。戦中には、反戦者として投獄をされていた宮本顕治氏の故郷である山口県光市の「島田川」の空き地で「兎を相当どっさり飼っている」ひとたちがいる、という描写が、なんだか日本の不思議な光景だなと思いました。検閲があって自由に書くことが出来ないので、なんでもないことを書いて送るしかなかった、というのがうかがえる手紙の内容なのですが、とにかく生きて故郷を見てほしいという思いの籠もった作品に思いました。
 

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算盤が恋を語る話 江戸川乱歩

 今日は、江戸川乱歩の「算盤が恋を語る話」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この小説は、なんだか引き込まれる展開をする作品に、思いました。モテない男が、モテないがゆえにどんどん意味不明な方向へと突き進んでゆくという、やらかし小説でした。独自の言葉をとにかく使おうとした男の物語でした。
 

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※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 会計士の主人公はえんえん暗号を使ってどこかにどうにかして繋がろうとして……。けっきょくは自分で作りあげた暗号の落とし穴にはまってしまって呆然とする、モテない男の顛末が描きだされていました。
 こんなに徹底的にモテない男の心理を、江戸川乱歩は細部までよく描き出せるもんだと、眼を見張る結末の、謎の小説でした。暗号が通じてなんとも心地良くなるという別の展開だったら、どういうことがあり得たんだろうかと思いました。暗号的な表現と言えば、そういえば源氏物語の主人公の、ほんとうの名前とかは、ほぼまったく明記されず、ほとんど暗号のように別の言葉が使われた……ように思います。

  

ラムネ氏のこと 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「ラムネ氏のこと」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 発明が必要なのだ、ということをとうとうと論じた坂口安吾の随筆でした。はじめにラムネ瓶の玉のことをいろいろ書いています。こういう発明をする人をラムネ氏と命名しているのでした。
 愛という言葉が無かった安土桃山時代に、西洋の「アモール(愛)」や「カリタス(人類愛)」をいったいどう日本語にするのか、たいへん困った。困り果てたすえに「ご大切」と訳した、ということについて書いていました。
 

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追記  作中の「アンリ・ベイル氏」というのはマリ=アンリ・ベール(Marie Henri Beyle)つまりスタンダールのことです。
Arrigo Beyle
Milanese.
Visse. Scrisse. Amò.
「生きた、書いた、愛した」という言葉がすこぶる有名な作家です。いつかスタンダールの名作を読んでみたいなと思いました。
 

愛 宮本百合子

 今日は、宮本百合子の「愛」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは戦後の1948年のごく短いエッセーで、愛について記したものです。wikipediaには「1927年から1930年にかけて」長年同棲した親友の女性とともに「当時のソ連に滞在。民間女性初のモスクワ遊学だった。モスクワ大学の聴講生となり」ロシア文学を研究した、というように書いていました。愛憎のありさまについて記している掌編です。本文こうです。

  愛という言葉をもったとき、人間の悲劇ははじまりました。人類愛という声がやかましく叫ばれるときほど、飢えや寒さや人情の刻薄がひどく、階級の対立は鋭く、非条理は横行します。
 わたしは、愛を愛します。ですから、このドロドロのなかに溺れている人間の愛をすくい出したいと思います。
 

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