細雪(72)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その72を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 細雪は父母の描写の機会が少ないのですが、今回は二十三回忌と母の面影のことが記されます。
 現代でも追善供養の一周忌が行われていると思いますが、百年前だと6回ほど三十三回忌まであったそうです。
「案内状の内容は、父の十七回忌と母の二十三回忌の法要を営むに付、来る九月廿四日の日曜日午前十時に下寺町善慶寺へ」と本文に記していました。
 今回は父と母の思い出のことが、あまたに書き記してありました。父は派手好きでお茶屋遊びが好きだったそうで「父がぱっぱっとした豪快な気象であるのに反し、母は京都の町家の生れで、容貌ようぼう、挙措、進退、すべてが「京美人」の型にまっており、互の性質に正反対なところのあるのが、いかにも好い取り合せ」の夫婦であったことが書いてありました。おおよそ百年前の雅な家柄や死生観が見えてくる、細雪のひとつの特徴が出ている章に思いました。細雪はあと30回ほどで完結します。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

細雪(71)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その71を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幸子は、妹の雪子が十数年もお見合いを続けていて、まったく婚姻に至らないことを残念に思っています。父親がわりになろうと幸子は努力しているようなのです。親族や関係者としっかり交渉を行って、良い相手だけと逢わせるように工夫をしなければならないところを、どうも失敗が続いています。これでは「ひとりプラットフォームに立ってしょんぼり此方を見送って」いた雪子がどうも不憫である。
 ただ、こんごは戦争による貧困が深刻になる時代が来るし、条件はどんどん悪くなってゆくので、先行きは不透明なのでした。作者の谷崎としては男親として家族を幸福にしたいという心情を、男が出征して居ない時代がやって来る、このころの幸子に重ね合わせて描くわけで、この幸子の心労や気遣いというのが、本作の中心的な描写になっているように思いました。
 これまでのお見合いは、雪子と幸子が相手を審査して、男を落第させていたのですが『昨日は此方が「受験者」で、沢崎が「試験官」だった』ので、どうにもはずかしめられた結果となった、ということが記されていました。
 富豪の沢崎とは明らかに相性が悪いんですが、相手方の家との縁もあるので、無礼に断るのも気が引けると思っていたところ、ちょっと遅れて、このお見合いは不成立ですという内容の、まあ就職活動では誰もが1度は経験する、不採用の書面が届いたのでした。
 ただ幸子も雪子も、不採用の通知の届くのが生まれてはじめてだったので、ほんとうにガックリ来てしまった。それで、相手は過失をほとんどしていないはずなのに、幸子は親代わりになってお見合いを設定しているわけですから「はなはだ気を悪くした」し「不愉快である」というように記されていました。
 どうしてこんな失敗をしたのか、考えてみるのですが、お見合いの打診をした相手である菅野のおばさまに、繊細さが欠けていて仲人としては良くない、それを見抜けなかったのが、雪子に恥をかかせた主因なのであると、いうように考えたのでした。
 「あらっぽい」菅野のおばさまとしては、たんに話しが来たから取り次いだだけだよ、というわけなのでした。
 大姉の鶴子のところにいる雪子には、お見合いは駄目だったということをそれとなく伝えてみて……云いにくかったら黙っていても大丈夫だという、控えめな手紙を送る幸子なのでした。次回に続きます。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  どのようなお見合いもしたことが無いので自分としてはこの場面の心労を想像しにくいのですが、就職活動に失敗したその瞬間に恋人から別れを告げられるくらい、人生の厳しい場面なのでは、というように思いました。
 

細雪(70)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その70を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 蛍狩りをしたあと、富豪とのお見合いが失敗に終わって、その帰郷のさなか、蛍籠になぜか蜘蛛が入り込んでいて、列車のなかで暴れだしてしまった。
 この物語ではほとんど出てこなかった軍人が、列車の中でシューベルトのセレナーデを歌いはじめてしまうという奇妙な事態が起きます。さらに姉妹たちもこれに反応をして一緒に歌ってみたのですが、見知らぬ軍人は顔も見せないまま、列車を降りていったのでした。幸子としては、お見合いが破談になった雪子を放りだして帰郷するのはなんとも酷薄なので、蒲郡の常盤館で一泊をして、姉妹たちでのんびり観光することにしたのでした。この物語は関西の幸子を中心に物語が展開するのですが、今回だけは、雪子が東京に帰ってゆくところが描かれました。
 雪子が一人で東京に帰っているときに、列車の中で、なにか見たことのある中年の男がこちらをじっと見つめてくる。よくよく考えると十年前の見合い相手だったことを思いだしたのでした。どうも相性が良くない相手だったので縁談を断ったというのを思いだして、あの時の自分の選択は正しかったなと、いうように考える雪子なのでした。次回に続きます。
 

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細雪(69)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その69を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 二十年前に見たことのある「書院窓の附いた古風な十二畳の座敷」で、富豪の沢崎とのお見合いが始まりました。今回のお見合いも、婚約や結納までは至らない可能性が高く、相手方の親戚の都合によってこの、進展する可能性が無いお見合いが用意されてしまったのでした。
 谷崎潤一郎は戦争がもっとも激しかった時期に、この古風な婚姻の長編小説を書きはじめ、途中で軍部から「時節にそぐわない」という理由で発禁処分を受けつつも、源氏物語の恋愛物語を現代語訳した経験を参考にしつつ、古い世界の中にある姉妹たちが、どのように新しい自由を獲得してゆくのかを、ゆっくりと描きだすという小説を書き継いでゆき、この章が書かれている頃はやっと戦争が終わって、戦時体制による混乱や貧困はまだ解消しては居ないのですが、平和と自由が見えてきた時代に、この物語の続きを書いているところなのでした。
 お見合いでの交流がなんともぎこちない、という描写が続きました。この物語の主役であるはずの雪子は、ほとんどなにも話さず「はあ」としか言う機会がない、というのが、なんとも妙な一場面でした。相手の沢崎もこれはもう、お見合いは終わったと思っている。姉の幸子はいろいろ気を配って、話題を振ったりしたのでした。次回に続きます。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記 数日間ほど旅行していて、更新がややとどこおっていました。

細雪(68)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その68を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 十年くらい前に「細雪」と言えば「蛍狩」の場面がもっとも風雅であるというような話しを聞いた気がするんですが、今回はこの、姉妹たちの蛍狩りが描かれた章でした。
 いっけん蛍は居ないように思えたのですが、川の奥のほうへゆくとあまたに現れます。この場面がやはり「陰翳礼賛」と日本の美を描き続けた文豪の、名文だなというように思いました。「細雪」を全文読む時間が無いという場合は、本章だけを読むのも、谷崎文学の魅力が分かる方法かなと、思いました。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記 谷崎は近代作家の中ではもっとも都会的で国際的な作家だと思いますし、女性や人間関係を描くことに注力している文学性なので、自然界を観察して記すというのは珍しい事態に思います。夢のように雅な光景でした……。その蛍狩りを終えたあとの、3人の姉妹たちの、深夜の寝姿の描写のほうがなにかこう、日本画を観察するような魅力的な描写にも思いました。あらゆる技法を極め尽くした鏑木清方であっても、暗がりの女性を描くことは不可能だったわけで、日本画では描ききれない陰翳のなかに佇む姉妹の美を描けたのが、この細雪の本章なのでは、と思いました。

細雪(67)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その67を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 十数年ぶりに、名古屋の爛柯亭を訪れた姉妹たちが描かれます。雪子のお見合い相手である沢崎氏と対面が近づいてきたのですが……どうもこれまで聞いていた「雪子さんをぜひ娶りたい」という沢崎氏の意向というのは存在しなったということが判明してしまいます。
 幸子が聞いていた話しとは異なっていて、お見合い相手の沢崎氏には積極的な思いは無く、雪子がどういう人かほとんどまったく知らずに居て、他のものたちが強引にこの見合いを用意してしまったので、とりあえず会うだけ会うことにした、ということが分かってきます。幸子としてはもう、雪子と沢崎氏とのお見合いは断りたいという気持ちになっているのでした。沢崎との婚約はまったく期待できない……こういう状況で、夜に蛍狩りに出かけることになった姉妹なのでした。
 

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