細雪(66)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その66を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 結婚式に出かける人のような、華やかな衣装を着て、大富豪とのはじめてのお見合いをしにゆく、その電車の中での、描写が続きます。戦時中ですから、ぜいたくな着物は、世間的には駄目だったという時代にこういう描写を入れるのが谷崎文学の独自性なのではと思いました。
 雪子は25歳くらいかと思い込んで千ページくらい読んでしまったんですが、じっさいの雪子の年齢は三十三歳なんだそうです。雪子の見た目はもっと若く見えるということが幾度も記されています。
 雪子は1905年あたりの生まれで平均寿命も今より短いですし、はやめにお見合いして婚約者を決めておかないといけない。
 雪子の、目のふちのシミも心労か不調がかさなるとこれが濃くなることがある。当時の化粧ではまったく隠すことができない。これがあると病かなにかの暗い気配がただよってしまうので、お見合いではなんとも気になってしまう。仲人というか世話人役の幸子と夫は、こう考えています。
quomark03 - 細雪(66)谷崎潤一郎
  最初から今度の見合いに熱意を抱き得なかった夫婦は、ひとしお希望が持てないような暗い気持がするのを、なるべく顔に出さないようにしながらも、互にそれを読み取っていたのであった。quomark end - 細雪(66)谷崎潤一郎
 
 今日はお見合いと、蛍狩をするという予定なのでした。前回、中巻の最終話で婚約者と離別してしまった妙子だったんですが、今回は姉の婚姻のための旅に付き添うことに、なにかこう、家族の親睦を感じているようで、この「もうあの不幸な出来事が格別の創痍そういを心に留めていないらしく、元気になっていた」という記載の前後の、妙子の描写が、なんとも人間的な人物描写で、魅入られる場面であると思いました。
 「細雪」は静かな作風ですので、事変の迫力に圧倒されたり感動したりという場面は薄いのかと思うんですが、中巻の終わりと下巻の始まりの描写は、なんだか響いてくるものがあると思いました。
 名古屋ゆきの汽車が途中で、なんだか立ち往生してしまいます。理由はよく分からないのですが、「どかん」という音を立てて、とまってしまって動かなくなる。しょうがないので、汽車の中で持ってきたごちそうをみんなで食べることにした。次回に続きます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

細雪(65)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その65を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は下巻のいちばんはじめの書きだしの章ですので『細雪』の上巻と中巻の振り返りのような事態が描かれています。雪子の縁談の相手として、新たに「沢崎」という名古屋の富豪の当主が現れます。この沢崎のあるじと結婚できるかどうか、幸子のほうで調べてもらっていたのですが、どうも沢崎というのは家柄がたいそう立派で、経歴だけを見ると、雪子の婚約者としては申し分のない裕福な資産家だし、二度目の婚姻を求める理由もはっきりしていて適正なもので、さらに蒔岡家の資産上の衰退や、伝統的な家柄というのもしっかり知っている上で、沢崎の当主は雪子を娶りたいというように考えていると判明します。
 これを断ったらもう、雪子は婚期を逃してしまうというように思えるわけで、幸子のほうはこれは縁談を進めるべきだというように考えます。四姉妹の末っ子である妙子の婚約者だった板倉との恋愛が不幸にも終わってしまったということも、世間では噂となっていて、姉の雪子の縁談に多少、負の側面を与えているようです。
 幸子と雪子は話しあって、現代で言うなら数十億円以上の資産を有する名古屋の大富豪との、縁談の話しを進めようということに決めるのでした。雪子の返答は「ふん」とか「はあ」とか、うなずきくらいしかしないでなにも話さないのですが、表情や声色からすると、結婚の可能性があるのなら、お見合いをしてみるという思いでいるようです。
 細雪の全文を読まないけれども、本文をのぞき見したい人にとっては、この『細雪』のいちばんはじめの書きだしの、注射器を手にした姉妹たちの妖しい雰囲気の箇所と、こんかいの下巻の書きだし部分、この2つを10分ほどで読んでみると、細雪全体の雰囲気を掴みやすいのでは、と思いました。
  

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。下巻の最終章は通し番号で『細雪 百一』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  今までの話しの流れからすると、明らかにこの大富豪と雪子との婚姻は、破談に終わるはずなのです……。本文には「望み薄な、アヤフヤな」「夢のような」縁談であって「ちょっと会わせるだけなのだろうから、気軽に、遊びに行くつもりで連れ出して貰えないか知らん、と云うのであった」……と書かれていました。

細雪(63)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その63を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 妙子の婚約者である板倉なんですが、板倉の手術が失敗してしまったようで「看護婦などは、この手術は院長先生の失敗です、ほんとうにお気の毒ですと云っている」……板倉は足が「痛い痛い」と云い続け、どうも「手術の時に何か悪性の黴菌ばいきんが這入って、その毒が脚の方へまわったものであるらしかった」という状態になっています。いろんな医者がやって来て、みんなどうにもできないということが分かってきてしまう。このページだけを読むと板倉は亡くなってしまう可能性がありそうで、緊急の手術がどうしても必要らしい。「母親は、どうせ助からないものならそんなむごたらしいことをしないで、満足な体で死なしてやりたい」と述べているところなのでした。
 原因としては、本文にはこう書いています。「櫛田医師の説では、耳の手術から黴菌が這入って四肢を侵すと云うようなことは、たとい一流の専門医が注意に注意して手がけても往々あり得る」
 ふたたび危険な手術をするのか、それとも痛みに耐えて自然治癒を重んじるのか、ということで親族でも意見が分かれてしまって、患者は苦しみ続けている、という状態が記されていました。事件らしい事件が起きない小説である細雪の中では、今回は急場が畳みかけられる展開になっていました。
 けっきょくは再び手術をして、足を切断するという結論に至り、安静にさせる注射を打って、病人はほかの病院へ運ばれていったのでした。
 次回で、細雪の上巻と中巻が完結し、物語は下巻へと展開してゆきます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

細雪(62)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その62を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 繊細な事情がある……妙子こいさんの婚約者の板倉が、入院をしてしまいました。板倉は「平素から頑健な、殺しても死にそうもない男」なのですが、今回は耳の奥の方の疾患で「手術の時に悪い黴菌ばいきん這入はいったらしいて、えらい苦しがってる」ということで、婚約者の妙子は東京の遊興を中断して、慌てて関西へ帰ったのでした。
 今回は、結婚に際しての親族の身辺調査が行われて、妹の妙子が、貧乏人板倉と交際しているのがどうも祟って、雪子ちゃんの縁談が流れてしまったという、暗い事情が記されていました。
 鶴子と妙子とは年齢も離れているし、大姉と四女だし、既婚者と未婚者だし、男選びの基準がまったく違うし、仕事論も人生論もぜんぜんちがうので、どこかで対立が起きるはずだと思っていたのですが、やはりこの問題が表面化してしまったのでした。貧乏人は弱味が露見した瞬間に状況が悪化してしまうのが辛いところなのでは、というように思いました。
 こいさんは人情味のある板倉と結婚して、独立して裁縫の仕事をしつつ生きるつもりなんです。だから東京で洋服屋を経営したいので、東京の鶴子の家のお金を頼るつもりだった。
 ところが鶴子のほうでは「今度のお金のことは、いつかも手紙で云ったような訳で、応じるつもりはないのだ」そして「こいさんが(お金持ちの)啓坊と結婚してくれることが一番望ましい」と考えているんです。妙子こいさんとしては、ボンボンの啓坊は不倫男で薄情男で、もうとっくに絶縁しているのであります。間で挿まれたかたちの幸子はちょっと困っている状態なのでした。次回に続きます。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  今回、声の小さい雪子は、電話での声がほとんど聞こえない、ということと、板倉が厄介者扱いされていて耳の病気になったというのと、歌舞伎の演目に隠されている「反魂香」という死者の声を聞くという物語がすこし記されていて、聞こえにくいものごと、というのがクローズアップされているように思いました。
 

細雪(61)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その61を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 妙子(こいさん)が、どうやって独立をするのか、というのがこのところの要点になっていました。そのためにヨーロッパ行きまで計画をしていたのですが、これは時世が影響して立ち消えとなりました。こんどは関東でより確実な、裁縫や人形作りの仕事を実現するために、とにかく東京で状況を探ることになった。まあ、姉の鶴子の家があって、仲の良い雪子も東京にいるわけだし、仕事も順調なので、それほど不安な旅路というわけでは無いようです。ただ、姉の鶴子の人生論や仕事論と、妙子の人生はかなり相違がありすぎるので、どうなるのかまったく分からない状態なのでした。
 それで、妙子の仕事の計画が、鶴子に伝えられるのですが、資金的な援助もしてくれそうで、良い感じに妙子の主張が通ったようなのでした。
 銀座でお茶をして、日比谷で映画を見るといった、東京での観光気分での遊興がいくつか記されている章でした。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

細雪(60)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その60を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 京都観光をしてきた三姉妹たちだったのですが、日帰りの旅の途中で娘の悦子が、高熱を出して、そのご寝込んでしまった。医者によると猩紅熱であるというのでした。感染症ではあるのですが自宅で療養をすることになって、貞之助の書斎を病室につくりなおして、簡易的な隔離施設としたのでした。この「細雪」の序盤では、自宅で注射を打って体調管理をする、妖しい気配の姉妹のさまが描かれてきたわけで、コロナ禍での自宅療養の報告がさまざまにあった現代に読んでも、なんだかリアルに感じる日本小説に思いました。
 我欲を押し通さないという静かな性格の雪子が、消毒を重んじつつ、病身の悦子のお世話をすることになりました。10日から1か月ほどの看病が必要になって、東京に帰るはずだった雪子は、長いこと関西で暮らすことになりました。
 隣家の旧シュトルツ邸には、スイス人のボッシュ氏が暮らしはじめます。このスイス人は繊細な男のようで、幸子の家の犬が吠えたり、蓄音機が音楽を奏でることに、手紙にて、苦情を申し入れてくるので、ありました。
 動乱の時世に、静かで繊細な、とくになにも起きない生活のこまごました事情を書きつづけることに、特異性を感じる文学作品に思いました。
 今回は中国出身の「アンナ・メイ・ウォン」という女優にそっくりな、ボッシュ家の美しい奥様のことが記されています。
 戦後すぐに、欧米で広く読まれた氏の代表作だなあと、納得のゆく描写が続きました。細雪を全文読まないけれども、内容をちょっと知りたいという方は、今回の章を読むことをお勧めできると思います。
 悦子の病気が自己療養で治るところの描写が生々しくて、これが今回の、谷崎潤一郎ならではの、きわだつ悪趣味なのでは、という印象でした。
 この妙な家族の状況で、独り立ちしたい妙子が突然、1人で東京行きをすることを告げるのでした。話しを聞いてみると、人形作りや洋裁の技術で妙子が独立するためには、東京で洋服店を経営するのが良いはずという案があるのですが、その裏には、フィアンセ候補の板倉が、金策のためにそういう実現しそうにない計画を打ち立てて、親族から金を引き出す狙いがあるのではという考察がなされていました。長女の鶴子はこの計画を完全に否定するはずなんです。次女の幸子は、末っ子の妙子の幸福を願ってはいるのですが、今回はどうも助力が出来ずに、黙ってなりゆきを観察することになってしまいそうです。次回に続きます。
 

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