ゲーテ詩集(35)

 今日は「ゲーテ詩集」その35を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 ゲーテといえば……春と真夏の詩人というイメージなんですが、今回も、明るい自然界を描きだすんです。現代人よりも、ゲーテのほうが春と自然を言祝ぐということは、それだけ厳しい冬に耐えてきた結果なのでは、と思いました。
  

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大凶の籤 武田麟太郎

 今日は、武田麟太郎の「大凶の籤」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 神社のおみくじで凶を引いたという経験は自分にもあるはずなんですけど、記憶に蓋をしてしまっていて、じっさいどういう気分だったのか、前後の記憶がまったく無かったりします。自分にとって都合のいい記憶は脚色してなんども話して忘れない、というのがふつうだと思うんです。作家の武田麟太郎は、この大凶を引いたときの記憶を再現するような感じで、ひどい暮らしをしていたことを詳細に書いていくんです。
 いったん自堕落になると、どこまでも人生を放りだしてしまう、という自己の奇妙な性格について吐露しています。「現実的な望みなぞ、嘘みたいにはかなく消えて、雲や水に同化したいと云ふ及びもつかない野心を起すこともある」と、老子の教えっぽいことも言うんです。
 仕事があって家族を養って順調に生きていた筈なんですが、急に原稿を書けなくなって締め切りも過ぎてしまい、真冬の貧しい街に逃げ出してしまって、ボロボロの宿で見知らぬ「高等乞食」の男と木賃宿に泊まって、仕事も家も完全に投げ出して、もうすぐ元旦がくるような日付に、浮浪者のように呆然としている。
 高等乞食というのは言い得て妙で、いっさい働かず無為に過ごしても死なないで済むのはそうとうぜいたくなことで、ふつうは仕事をしたり、自宅にこもって健康を維持したりしないと、たいてい行き詰まってしまう。海外旅行の貧乏旅をしている感じで、安宿に居座って、いつまでも自宅に帰らない。
 狐使いの老いた占い師、高等乞食、「私」この木賃宿に居座る3人の話しでした。
夢で見た戦場のピアノの描写がなんだかすごかったです。
 三人は泪橋でぐだぐだえんえん飲むんです。百年前からほとんど変わらない地勢というのがあるんだなあと思いました。大晦日の東京を描きだした、季節感のみごとな小説でした……。 
 

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湖南の扇 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「湖南の扇」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 中国は湖南の情景と、二〇世紀前半の不気味さが漂う、紀行文のような描写からはじまる文学作品です。芥川龍之介は平安末期の羅生門の惨状を描きだしたり、荒廃や死骸というのにものすごいこだわりがあるように思います。
 芥川龍之介が中国を旅したのは1921年(大正10年)のことで、その時に湖南を訪れています。物語はまず、労働者たちの不穏な人間関係が描きだされてから、つい最近起きた強盗団の斬首刑のことが語られます。主人公の「僕」はかつて日本で知り合った留学生の譚と偶然にも再会する。彼の案内で、「僕」は芸者のいる妓館で食事をすることになる。芸者の美女が幾人か現れて、主人公の「僕」と豪勢な食事をします。……このあとの、不気味なビスケットについては、ぜひ本文をご覧になってください。平安末期の荒廃した京都を描きだしたあの芥川龍之介が、中国の湖南を描くとこうなるのか、という鮮烈な印象の物語でした。百数名もの犠牲者がいる悪漢の……愛人だった女性が、娼館に現れるんです。極悪人の娼婦だった玉蘭という女です。
 その玉蘭の憂いある行動と発言に、衝撃を受けました。魯迅の文学にも通じるような、みごとな作品でした。
 

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追記  これは完全にネタバレなので、先に本文「湖南の扇」を読んだほうが良いと思うんですが……悪漢が刑死し、当時の俗習に従って血を瓶詰めにした者が居たようで、この血を吸いこませたビスケットが登場するんです。そういえば二月のバレンタインもじつは血塗られた歴史からはじまった記念日だったよな……と思いました。

細雪(14) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その14を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この前に行われていた縁談は、一緒に食事する場面ではとくに問題なく進行したはずなんですが、その後にあらかじめ告げられていた興信所の調査がおわって、縁談に関わっている人から、電話がかかってきた。「ええ話とは違うさかいに、喜ばんとおいてほしい」ということで、どうもこれはやはり今回も失敗の展開になるようです。今回は、いちばん雪子の面倒をみようとしている、姉の幸子の意識を中心に記されています。今回の雪子の破談の理由は、複雑な事情なので、最初のページから本文をぜんぶご覧になってください。
 家の近くで、幼子である悦子と、そのともだちのルミー(ローゼマリー)さんが遊んでいる描写がありました。
 破談になった相手のことなんですけれども、相手との年齢の釣り合いがとれていて良い感じだったり、資産家だから苦労が少なそうであったりという、いっけん良さそうな相手が、じつは別の愛人がいるとかどうも結婚に至らない理由というのがある。いちおうは事情を調べるしかないわけで、相手のことをまったく調べないで、完全に運任せの婚姻をさせるわけにもゆかない。相手は期待を脹らませるだけで失望する、ということが起きてしまう。普通に考えて、相手方の家柄が良いと安心感があるのでは、と思ってきたんですが、良い家柄を守ろうとすると、親しくなりかけた家との関係を断ち切るわけで、これで恨みが生じているというように言える……家柄が良いと、政略が必要になってしまって、かえって不自由が生じてしまうもんだと、いうのが見えてきて、なんだか富者の意外な告白を読んでいる気分でした。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

日本再建と科学 仁科芳雄

 今日は、仁科芳雄の「日本再建と科学」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 平和利用でしかない技術を徹底的に拡充するという1945年からはじまった、日本の科学と産業の発展の始まりのところの、科学者の考えが記されていました。敗戦後にものすごい経済発展を遂げた、二〇世紀中盤の日本の迫力が感じられる、奇妙な随筆でした。
 仁科氏は平和憲法に関する、20世紀後半へ向けての近未来の考察を行っていて、これが倫理的に正しいということのみならず、経済発展や国際状勢という利害関係から見ても適切な条文であるということを説いていて、五十年先のことを読み解けているのがすごいと、思いました。
  

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お守り 山川方夫

 今日は、山川方夫の「お守り」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはサスペンスものの短編小説で、倒置法の技法と似ている書きかたで、時間軸が前後しながら、犯行寸前の男の心境が語られてゆく、緊張感のある小説でした。
 ドッペルゲンガーの物語が流行する時代というのがあるように思うんです。集合住宅が盛んになる時代とか、インターネットが未整備の時代とか……。戦前の近代小説にもこれの流行する時代というのがあったのでは、と思いました。これは戦後の作品だからなのか、哲学的な問題の描かれた、すてきな小説でした。
 

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追記   終盤では、悪の劣化コピーにならないためにはどうしたらいいのか……という問題が生じています。ちがうものなのに似たようなものだと……誤認させてくるのが振り込め詐欺師や不審者の行うことがらで、似ているようでじつはかなりの違いがあることを分からせるのが平和で文化的なものごとなのでは、とか思いました。
   部屋を間違えて入ってきてしまった隣家の男……というのはそういえば十年くらい前にぼくも経験したことがあって、優れた小説の場合、絶対にあり得ないような異変が、じつは現実にあり得そうな事態に収斂しゅうれんしてゆくことがあるなあ、と思いました。