猫町 萩原朔太郎

 今日は、萩原朔太郎の「猫町」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  旅というと、目的地を目指す探訪であるとか、探索とか、社会見学みたいな要素があるのかと思うんですが、萩原朔太郎はそういった目標のある旅では無く、まず、幻視のなか訪れる謎の異界の魅力について記していて、さらに路地の中に迷い込んで方角を見失い居場所が分からなくなることの魅力について描くのでした。萩原の本業は詩作なんですけれども、こんかいは自分の旅の体験を小説の形で記しているのでした。詩人の描く小説、というだけでなにかすてきなものに思いました。萩原朔太郎が冗談のように謎の世界についておもしろおかしく語っているのか、あるいはほんとうにあった奇妙な出来事として、あまたの猫が住む街について記しているのか、いったいどちらなのか判別がつかないまま、謎の事態を読みすすめてゆきました。これは小説の文体を模した、詩なのでは、と思いました。
 

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細雪(42)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その42を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは戦争の被害が大きいころに書かれたものなんですが、ほとんどそのことは記されてきませんでした。こんかい、隣家のドイツ人一家が日本での仕事を辞める場面が描かれています。第29話で、大阪にある実家の蒔岡家の暖簾を畳んで東京に引っ越すという場面も描かれていたので、これと共通したことを記しています。戦争に対する批判が日本の軍部によって全面的に禁止されていた時世に、あらゆる恋愛の場面や危険な事態を描いてきた谷崎潤一郎が、この戦争のことを単簡に記しているのでした。本文では、日本が「戦争を始めてからさっぱり商売がありません」お店も「ほとんど休んでいるようなものです」戦争が「いつ終るか分りません」これで店を畳むことにした、というように書いています。蒔岡家の子どもたちも、この仕事を失ったドイツ人一家を見送るのでした。次回に続きます。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
追記  谷崎潤一郎は1944年の5月ごろまでに中巻(第30話から50話あたり)を数百枚ほど書いています。ミッドウェー海戦の敗北、アッツ島の玉砕、学徒出陣、大敗に至ったインパール作戦、これが終わったあたりに谷崎は中巻の中盤を書いています。
 この本の時代背景なんですが、描かれているのは5年ほど前の世界なんです。1936年の冬から物語が始まって、1937年の夏に大阪は船場の本家を引き払って長女鶴子の家族と雪子が東京に引っ越します。1938年の春に二女の幸子が流産するという不幸があって、第29話で上巻が完結します、中間はそのすぐあとの晩春が描かれて、夏に洪水があり、今回、隣家のドイツ人一家が日本を去ったという展開になっています。この物語はこの3年後の1941年の春に幕を閉じることになります。あと60回あって第101話で完結します。
 

断水の日 寺田寅彦

 今日は、寺田寅彦の「断水の日」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  1921年12月8日の茨城県南部地震と、これに伴う東京の断水のことを記していました。老朽化した建造物が今後は増える、この危険性のことを寺田寅彦が思案してます。寺田寅彦のように考える人が多数派だったら、そののち百年の日本の公害被害はもっと少なくなったのではというように思いました。
 百年前の東京では、壊れかけの商品が多く「鳴らない呼び鈴」というのがそこいらの家々にあった、というかなりどうでもいい雑学がなんだか百年前の東京を妙に印象づけるものに思いました。切れない刀、壊れている新製品、水の出ない蛇口、誤った科学知識、と災害後に妙なことが思い起こされてゆくのでした。粗悪品に手を出さない、というように消費者側が知恵を持つことの重要性についても書かれていました。
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  どうしても「うちの井戸」を掘る事にきめるほかはない。quomark end - 断水の日 寺田寅彦
 
 という最後の一文が妙に隠喩的で、印象に残りました。
 

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黄金風景 太宰治

 今日は、太宰治の「黄金風景」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだかギョッとする内容のもので、幼いころの「お慶」さんというかつての女中への思いの遍歴が書きあらわされていて魅入られました。太宰が作家になる寸前と、戦中と、戦後の作風に得心がゆく掌編に思いました。ほんの数頁の作品なんですが、日本近代文学の代表的な私小説に思いました。
  

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追記  本作で引用している、プーシキンの言葉はこれは「ルスランとリュドミラ」という物語詩に記されたものです。
 

学問のすすめ(13)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その13を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 こんかいは怨望について論じていました。後半でこの問題をまとめた箇所があってそれは「人間最大の禍は怨望にありて、怨望の源は窮より生ずるもの」ということで人類でいちばんの不幸は怨みをつのらせることで、これは閉鎖的な状況によって作り出される。だから他人の言論の自由は重要だし、他人の経済的な自由も重要になる。不幸が起きている現場では、この経済的自由と言論の自由が壊されている。中世日本で言うところの、殿様の御殿に囲われた女中たちが直面した、不合理な賞罰制度と不自由と、そこから生ずる怨みのことが例示されていました。福沢諭吉の、怨望の解決案としては、言論の自由と経済の自由を拡張する、ということを述べていました。本文こうです。
quomark03 - 学問のすすめ(13)福沢諭吉
  自由に言わしめ、自由に働かしめ、富貴も貧賤もただ本人のみずから取るにまかして、他よりこれを妨ぐべからざるなり。quomark end - 学問のすすめ(13)福沢諭吉
  
 凶悪な犯罪の場合は、壊れた発言と壊れた金力というのが中心にあるようにも思うんですが、他人の言論の自由を豊かにしてゆく、というのがどうも重要なんだろうと、思いました。
  

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★ 『学問のすすめ』第一編(初編)から第一七編まで全文を通読する
 
追記  現代のAI到来時代にも通用することを、福沢諭吉は論じているように思いました。福沢諭吉は「人間最大の災いは怨みにある、怨みの源は窮から生ずる」と述べています。AIが進化して労働者が減ってゆく現代に、あらゆる人の「自由に言わしめ、自由に働かしめ」ということを実現するには、運輸業をすべてAIが担当するころに、1%の超富裕者層からの税金を使ってベーシックインカム制度を導入する必要があるのでは、と思いました。

ゆふべみた夢 富永太郎

 今日は、富永太郎の「ゆふべみた夢」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 美しい情景の記載からはじまるこの抒情詩は、中盤から友人との奇妙な再会を喜ぶ、夢らしい夢の場面が描かれ、そこから友人Nの不吉な崩壊が、詩の言葉で描きだされてゆきます。「ぼんやりそこに立つたまま、よごれた彼の顔を眺めてゐた。」という終盤の一文が印象深い掌編でした。
  

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