悟浄出世 中島敦

 今日は、中島敦の「悟浄出世」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
『山月記』で有名な中島敦が、妖怪の沙悟浄を描いた小説です。なぜ人食いの妖仙である沙悟浄が三蔵法師の弟子になったのか、その前日譚のところが描かれています。
 悟浄は「九人の僧侶そうりょった罰で、それら九人の骸顱しゃれこうべが自分のくび周囲まわりについて離れな」くなり、悩みが高じて、哲学的な疑問を抱くようになった。妖怪でしかない沙悟浄が、この悩みを解決するために、黒卵道人こくらんどうじんや、沙虹隠士といった導師のもとを訪ね、死と苦と哲学についての教えを得るのでした。
 西洋でいうところのディオゲネスの思想にも似た不思議な議論と、師を求む旅が展開するのでした。妖怪から修行者へと転じてゆくさまが長々と記され、ついに三蔵法師に出会うのでした。本文こうです。「悟浄ごじょうは、はたして、大唐だいとう玄奘法師げんじょうほうし値遇ちぐうし奉り、その力で、水から出て人間となりかわることができた。そうして、勇敢にして天真爛漫てんしんらんまん聖天大聖せいてんたいせい孫悟空そんごくうや、怠惰たいだな楽天家、天蓬元帥てんぽうげんすい猪悟能ちょごのうとともに、新しい遍歴へんれきの途に上ることとなった。」
 冒険譚と哲学書が混交したような、なんだかすてきな本でした。
  

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ゲーテ詩集(62)

 今日は「ゲーテ詩集」その62を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 今回のゲーテの詩は『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』に登場したミニヨンという女性が主人公の詩で、これは有名な詩なんだと思います。
 作中で、霧に隠された洞窟と、老いた竜というのが記されていて『ファウスト』中盤でも繰り返し描かれた、神話的な表現がありました。
quomark03 - ゲーテ詩集(62)
 ねえ、いとしいお方、わたしはあなたと参りませう
あの雲に聳えた山路を御存知ですか?
驢馬は霧の中に路を求めて行き
洞窟ほらあなの中には年とつた竜が棲まつてゐて
くづれ落ちた岩の上に波のうち寄せる
あの路を御存知ですか?
………quomark end - ゲーテ詩集(62)
 

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黒壁 泉鏡花

 今日は、泉鏡花の「黒壁」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 泉鏡花と言えば幽寂な日本画の世界に、母や妻への思慕と恋情を描きだす、雅な作家だと思うんですが、今回のは始まりから終わりまで怪談のみを書き記していました。
 金沢の黒壁山の深夜二時ごろ「うし時詣ときまいり」をする妖しい女たちがいる。五寸釘が打ちつけられて穴だらけとなった木木が闇夜の中に浮かびあがるさまが描写されます。この黒壁山に、一人の女が現れます。
quomark03 - 黒壁 泉鏡花
 霜威そうい凜冽りんれつたる冬の夜に、見る目も寒く水を浴びしとおぼしくて、真白の単衣ひとえは濡紙を貼りたる如く、よれよれに手足にまといて、全身の肉附は顕然あらわに透きて見えぬ。うるおいたる緑の黒髪はさっと乱れて、背と胸とに振分けたり。quomark end - 黒壁 泉鏡花
 
 これが主人公の「」の親友である美少年を、呪いつづける女であることが中盤で明らかになります。「かれ」は放蕩の末に家を追い出されていて困っていた。その時に現れた女が「お艶」なんです。かれは「豪商の寡婦に思われて、その家に入浸いりひたり、不義の快楽を貪りしが、」四ヶ月もするとこの不義が祟ってかれは衰弱してしまって「お艶」から逃げ出してしまった。「お艶」はこの愛別離苦が耐えられず……続きは本文をご覧ください。
  

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追記   さいごには「お艶」の渾身の「うし時詣ときまいり」を目撃してしまいます。「カチンと響く鉄槌の音は、鼓膜をつんざきて予が腸を貫けり」と泉鏡花は記します。ここから、呪詛に冒された二人の男女がどうなるのか…… というところで、結末が記されないままこの小説は幕を閉じるのでした。
   

ゲーテ詩集(61)

 今日は「ゲーテ詩集」その61を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 夜の美しさを描きだす、幻想的な詩でした。
 
 ……若し夜分になりまして
 楽しい灯火ランプのほのかな光が流れ
 口から口へ雨のやうに
 冗談と愛とが注ぎ込みますときは……
 

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雪三題 中谷宇吉郎

 今日は、中谷宇吉郎の「雪三題」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦争中に戦争とまったく違うことをしていた人は多かったはずなんですが、今回の中谷宇吉郎は戦時中に、米国の気象学会会長が後援して出版されたベントレーの『雪の結晶』に刺戟されて始めた、中谷の仕事のことを書いています。1942年の戦争が激化して特高が言論統制を行っているころ自分の死期を感じつつ……「今までの十五年間の雪の研究をまとめて、二千枚の顕微鏡写真とともに、岩波書店へ渡しておいた」と書いていました。
 自然界の謎を解き明かしてゆく自然科学者の思いは世界共通のものであって、その研究のことを細かに記している随筆でした。中谷宇吉郎は、雪が生活をはばむことに関して、日本の北国の為政者が、その実情をよく見ていないことに疑義を呈しているのでした。
  作中で引用している、源実朝の歌というのは「奧山の岩垣沼に木の葉おちてしづめる心人しるらめや」という沼の底の木の葉について歌ったものでこれは万葉集第四巻の丹波大女娘子の和歌「鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉落ちて浮きたる心我が思はなくに」という歌に感化されて作られた作品なんだと思います。鴨が遊んでいて、そこに落ち葉がぷっかりと浮くような、そういう浮ついた気持ちで思っているわけではありません、という歌なのでした。
  

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シグナルとシグナレス 宮沢賢治

 今日は、宮沢賢治の「シグナルとシグナレス」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは宮沢賢治の童話で、花巻鉄道の信号機であるシグナルとシグナレスの物語です。
 

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追記  2人の会話がすてきで、終盤では、霧で世界がおおわれて、お互いの顔が見えなくなります。2人は夜明けを待ち、再び出逢えるように、祈りをささげるのでした。この一文が印象に残りました。「星はしずかにめぐって行きました。そこであの赤眼あかめのさそりが、せわしくまたたいて東から出て来、そしてサンタマリヤのお月さまが慈愛じあいにみちたとうと黄金きんのまなざしに、じっと二人を見ながら、西のまっくろの山におはいりになった時、シグナル、シグナレスの二人は、祈りにつかれてもうねむっていました。」さいごは二人の願いが叶って二人きりの美しい世界に至るんですが、それはどうも、地球ではなくって美しい銀河の中で、お互いに見つめあっているのでした。ふと気がつくと夢が覚めて「二人はまたほっと小さな息いきをしました。」という言葉で締めくくられる、清らかな童話でした。