吉野葛 谷崎潤一郎(1)

 今日は、谷崎潤一郎の「吉野葛」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今日から6回に分けて、この小説を読んでゆこうと思います。谷崎潤一郎と言えば「痴人の愛」とまんじがぼくは大好きなんですが、今回の小説はちょっとけっこう難解なことが書いてあって、ようするにある小説家が、奈良は吉野の南北朝時代に生きた「自天王」と五鬼のことを調査している。吉野の側からみた南北朝時代における伝説についていろいろ論じている。
 ところでぼくは知らなかったのですが、五鬼継という家系は今もあって、wikipediaにも掲載されているのでした。
奈良は生駒に鬼取町という村があって、そこでかつて捕らえられた五鬼の子孫……というのが吉野に生きてきたと……。
 古い本に書かれた鬼というのはモンスターのことでは無く、人のことをどうも書いているようです。じゃあ古事記の黄泉の国にいる鬼はなんだったんだ、とか思いました。
 

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吉野葛よしのくず」全文をはじめから最後まで通読する(大容量で重いです)

季節のない街 山本周五郎

 今日は、山本周五郎の「季節のない街」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 僕はこれを昨日はじめて全文、読んでみたんですけど、日本の映画で印象深かったものが、山本周五郎の小説の中にあまたに記されていて、映画と小説には、こんなに共通項があるのかと驚きました。
 山本周五郎は時代小説を主に描いたと思うんですが、今回のは戦後すぐを描いたものです。かなり現代人と共通項が多いように思います。
 この山本周五郎の小説はちょうど、近代と現代との……中間が描きだされた世界のように思えました。
 山本周五郎の本を読んだ人たちが、日本の映画の脚本を書いたはずだ、と思うところがいっぱいありました。「どですかでん」とか。
 じっさいはどういう事情で描かれたのか分からないのですが、この「季節のない街」は、戦争孤児のことを考えて物語を創っているように思う短編がいくつもありました。
 この小説は漱石や谷崎とちがって、読みにくい箇所が混じってるんです。とくに酒飲みの話しと、虚言癖から生じる政治論のところがかなりの難読箇所でした。ぼくは「肇くんと光子」という短編がいちばん楽しかったです。それから終盤「たんば老人」の「泥棒」に遭遇するエピソードが印象に残りました。
 いちばんはじめの六ちゃんが運転する幻の電車に導かれて、物語の世界に引き込まれてゆきます。戦争が終わったあとの世界が、いったいどういうものだったのかが垣間見えるように思いました。
 

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坊っちゃん 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「坊っちゃん」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは分かりやすい小説なんですけど、きよというおばあさんが、母親のように主人公の面倒をみてくれるのが印象深いんです。漱石は子どもの頃に、血の繋がっていない父母に育てられたんですけど、その影響があるのか、他人を肉親のように扱ったり、肉親を他人のように捉えたりする、そういう個性的な人物像が繰り返し描かれるのかもしれないと思いました。当時はそれほど奇妙な家庭環境では無かったようですけど。
 作中に、登場人物たちをこのように解説しているページがありました。ここさえ読めば、どういう人たちがなにをしているのかは分かると思います。本文こうです。
quomark03 - 坊っちゃん 夏目漱石
  山嵐のようにおれが居なくっちゃ日本が困るだろうと云うような面を肩の上へ載せてる奴もいる。そうかと思うと、赤シャツのようにコスメチックと色男の問屋をもって自ら任じているのもある。教育が生きてフロックコートを着ればおれになるんだと云わぬばかりの狸もいる。皆々それ相応に威張ってるんだが、このうらなり先生のように在れどもなきがごとく、人質に取られた人形のように大人しくしているのは見た事がない。顔はふくれているが、こんな結構な男を捨てて赤シャツに靡くなんて、マドンナもよっぼど気の知れないおきゃんだ。赤シャツが何ダース寄ったって、これほど立派な旦那様が出来るもんか。quomark end - 坊っちゃん 夏目漱石
 
 山嵐以上に無鉄砲なのが、主人公なんです。あと、お金のやりとりがなぜだかおもしろかったんです。竹を割ったような性格の主人公が、こういうお金は要らないとか、きよおばあさんからもらったお金のこととか、なんともこう、お金の扱いがかっこ良いんです。漱石は新聞社から給料をもらっていたのに、新聞社がやる間違った考え方について批判的に描写するところとか、そういうところも凄かったです。
 

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草枕 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「草枕」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ピアニストのグレン・グールドが、長年この本を愛読し、繰り返し読んでいたそうです。
 この本の主人公は旅人で、山路と宿を通りすぎながら、人々の不可思議な生をまのあたりにします。作中に描かれる漱石の文明論がみごとなんです。ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」の作品がこの物語の中で語られていて、印象深かったです。この絵画です。

art202004 001 - 草枕 夏目漱石

 ぼくはこの本を一章ずつ十日間かけて読んだんですが、グールドの音楽と『草枕』には明らかに響きあうところがあるように思いました。グールドのピアノ演奏を聴きながら『草枕』を読むと、いわく言いがたい読書体験になるんですよ。いちど試してみてください。
 

0000 - 草枕 夏目漱石

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夏目漱石 吾輩は猫である

 今日は、夏目漱石の「吾輩は猫である」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今日2020年2月22日はネコの日らしいので、猫の小説を紹介してみます。ぼくはこの長編小説を10回にわけて10日間くらいでいちおう読み終えたのですが、これは漱石の処女作で、かなり冗長な場面がくり返されるため、読み終えるのがむつかしい本だと思いました。
 はじめて漱石作品を読むときは「吾輩は猫である」は当時発表されたのと同じ方法で、短編小説として1章のみだけを読むというのもお勧めします。ストーリーは特にない小説なので、1章と9章を読めば、かなりこの小説の魅力は堪能できる、ような気もします。これは漱石がいちばんはじめに、かなり長い期間を通して記した長編小説で、漱石の前期と中期の創作にかんして年表を作ってみたんですが、こうなっています。
zunisuruto souseki - 夏目漱石 吾輩は猫である
 「吾輩は猫である」には、漱石ののちの作品の萌芽といえるような魅力的なシーンが多数あって、漱石作品の「三四郎」や「それから」が好きな人は全文読んでみると、いろんな発見があると思います。芸術論や文化論などの会話がさまざまに記されていて、どこかを抜粋して読んでもおもしろいんです。
 猫には垣根が無い、家の内と外の区別を持たない。そこから人々の考え方に耳をすまして透視して見てゆくのが、こんかいの主人公なんです。
 

0000 - 夏目漱石 吾輩は猫である

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卍 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「まんじ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 谷崎潤一郎は、母語が関西弁じゃないんですけど、みごとに流暢な関西弁でこれを記しています。ぼくは生まれも育ちも関西なので、ニセ関西弁には敏感なほうだとおもうんですけど、この谷崎の方言は、みごとだと思います。
 ちょっと調べてみると、文学を記すためにわざわざ大阪の女と同棲してその言葉を生でえんえん聞きつつ書いたことがあるそうです。他にも関西弁の助手を雇って、言葉を書かせたりもしたそうです。
 それでも大阪生まれ大阪育ちの作家から見たら、この関西弁はちょっと、男女の言葉づかいの書き分けなどが不完全で、方言の理解がちょっと足りてないんだそうです。ぼくには完璧な関西弁に思えるんですけど……。谷崎潤一郎は、男女関係を描くのがこの時代にはありえないほど自然でおもしろく、今回はレズビアンの恋愛が印象的で、それから修羅場を描く時の迫力がすごい、というのが魅力だと思います。
 

0000 - 卍 谷崎潤一郎

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