秋の瞳(9)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その9を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 壺と宇宙を描きだす、謎めいた詩が魅力的でした。戦後の現代詩でも、このように自由なこころもちを描きだした詩は少ないのでは、というように思いました。
 「光を / きざむ」という、詩以外のところでは使われない言葉の組み合わせの妙に、魅入られる詩でした。
 

0000 - 秋の瞳(9)八木重吉

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約2頁 ロード時間/約5秒)
 
★八木重吉「秋の瞳」全文を通読する

善いことをした喜び 小川未明

 今日は、小川未明の「善いことをした喜び」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは幼子むけの物語で、大人が読むように作られていない、シンプルな作品なのですが、後半の三行のところでちょっとした善悪の対比の構成があって、不思議な読後感の童話でした。小川未明の童話と言えば「青い時計台」や「赤い蝋燭と人魚」がお勧めです。
 

0000 - 善いことをした喜び 小川未明

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
追記  お母さんとさよ子は、ごくわずかではあるのですが慈善の援助をして安らかな心もちになるのですが……ケチれるだけケチった人はけっきょくはお金を無駄にしてしまう、という展開でした。

死 アルツィバーシェフ

 今日は、アルチバシェッフ・ミハイル・ペトローヴィチの「死」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 紳士的ではあるが人を小馬鹿にしたようなことばかり考えている医師ソロドフニコフは、街で妙な男と出会います。見習士官ゴロロボフは、なんだか奇怪な考えに取り憑かれていて、ある日とつぜん、医学士を目の前にして、死について語りはじめるのでした。ゴロロボフはどうも、死の妄念に取り憑かれている。医学者は彼を観察するのですが……やはり妙なことばかり言うと思ったら、しばらくしてゴロロボフは死んでしまう。文学に描きだされる死の描写が印象に残る、哲学的な小説でした。
 ゴロロボフの狂った考えに引っぱられて、医学士は夢魔の中で、蛆や暗黒や絶望に包まれてゆき、異様な感覚に陥ってゆく、その描写が恐ろしかったです。
 アルツィバーシェフの書き記す「空虚な言語」あるいは「死は天則ですからね」という一文が印象に残りました。
  

0000 - 死 アルツィバーシェフ

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 

細雪(56)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その56を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 本文には3人の姉妹の性格が、こう記されています。
quomark03 - 細雪(56)谷崎潤一郎
 妙子がはたの迷惑や人の思わくも構わないで、自分の好きなように振舞うのに反して、全然能動的に動く力を欠いているような雪子の、あれ以来東京の空でびしく暮しているであろう様子が、しきりに幸子の念頭に浮かんだ。quomark end - 細雪(56)谷崎潤一郎
 
 幸子は世間体を異様に重んじていて、妙子の醜聞が雪子のお見合いに及んでしまうのを警戒しているのでした。
「おさく師匠の追善の舞の会」というのが「昭和十四年(1939年)二月」に執り行われることになり、ひさしぶりに、東京の雪子と再会をするつもりなのでした。
 戦争が激化してゆく時代なので、舞の会も自由に行いがたくなってきて「こう云う催しも時局への遠慮から追い追い困難になる」と記されていました。
 こいさん(妙子)が追善の舞をするので、新しい衣装を用意している幸子なのでした。
 物語の本筋には関わってこないのかもしれませんがおさく師匠の高弟である「さく以年いね」という人もちょっと書かれていました。ずっと東京に居た雪子が、ひさしぶりに関西に帰ってきます。舞の訓練のために、美しい着物を着ている妙子のところへ、長旅を終えて雪子が入ってくる場面がありました。
quomark03 - 細雪(56)谷崎潤一郎
 あれからざっと半年間会わなかった雪子の様子を見上げたが、内気なようで花やかなことの好きなこの妹が、汽車で疲れたらしい青い顔をして這入って来て、この光景に出遇であった今、急に眼元をほころばしたquomark end - 細雪(56)谷崎潤一郎 
 
 追善の供養の舞であっても控えめな集会になっていて「時節柄、余りぱっとせんように、云う趣意かも知れんな」ということが記されています。
 

0000 - 細雪(56)谷崎潤一郎

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 

化生のもの 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「化生のもの」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
「仏性のもの」という作品なのかと思って読みはじめたら「化生」という今では聞きなれないことばが使われる短編小説でした。
 小泉美枝子という美しい未亡人に、なにか妙な噂がついてまわる、というところから物語が始まります。美枝子はどうも、再婚していないのに妊娠をしたらしい、という噂が生じます。
 けっこう下品なことをいろいろ述べてまわる人々がおおぜい出てきて、愛人の問題や男女のちがいのことについてこのように論じます。「一切のことを秘密に運ぶ能力を、女は持ってるのだ。それに比べると、男はまるで赤ん坊だ。どんなに秘密に事を運ぼうとしても、すぐに尻尾を出すからね」と語ります。
中盤でこういう場面があります。
 浅野は眉をひそめた。
「実は、まだひどいことがあります。あなたが姙娠されてるとかいうような……。」
 美枝子はにっこり頷いた。
「むしろお芽出度い話ですわ。恋人が出来たり、赤ちゃんが出来たり……ふふふ。」
 美枝子当人は、妊娠したという噂はまったく気にしていない。なぜかというと……。
 

0000 - 化生のもの 豊島与志雄

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
  
ここからはネタバレなのでご注意ください。美枝子当人は、妊娠したという噂はまったく気にしていない。なぜかというと、この嘘を言いはじめたのは美枝子本人だったわけで、星山という嫌な男を遠ざけるために、嘘の妊娠について噂を広めてみたのでした。これで太い金の指輪の男は美枝子との再婚を辞めたというわけなのでした。
 美枝子と親しい浅野は、彼女の妊娠の噂で混乱してしまいます。
「板倉さんのティー・パーティーの日にね、星山さんが、途中で誰かに襲われなすった」という場面がありました。この襲った男がどうも、浅野という男だったのでした。この事件があって、浅野は美枝子との恋愛を諦めて去っていったのでした。浅野が書き残した手紙はこうでした。
  
 私の胸の奥に神聖無垢なあなたが永久に留ることを、御信じ下さいますでしょうか。私は今、あなたに対する感謝と愛とで一杯です。同時に、世間というものに対する憎悪で一杯です。私は田舎に戻り、一切のことを妻に告白するつもりです。
  
 美枝子は、どういう意図で、星山と浅野を驚かせたのか、その真相が終盤に告げられるのかと思ったら、それは「微笑み」にかき消されてゆくのでした。最後の数ページの美枝子の態度が魅力的な、短編小説でした。

 
 これは、戦後すぐに書かれた小説なんですが、なぜか同時期に書かれた谷崎の「細雪」でも出ていた「板倉」という名が出てきます。まったく関連性は無いはずなんですが。板倉という名前をとおして、貧富の差とか、下品な男とか、謎めいた女の思いとかが、2つの作品に書きあらわされています。

燈籠 太宰治

 今日は、太宰治の「燈籠」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 太宰治は、作家である己自身を主人公にして小説を書くことが多いと思うのですが、こんかいは「私は、まずしい下駄屋の、それも一人娘でございます。」という記載ではじまる、ひきこもりがちな女性を描きだした小説になっています。太宰治の代表作は、ほかに「女生徒」がお勧めです。
 本文の序盤に「わがまま娘が、とうとう男狂いをはじめた、と髪結さんのところから噂が立ち」と記されています。
 不幸な境遇も語られていて……「地主さんの恩を忘れて父の家へ駈けこんで来て間もなく私を産み落し、私の目鼻立ちが、地主さんにも、また私の父にも似ていないとやらで、いよいよ世間を狭くし、一時はほとんど日陰者あつかいを受けていた」
 そこから五歳年下の水野さんとの恋愛のことが記されます。「水野さんは、みなし児なのです。誰も、しんみになってあげる人がないのです。もとは、仲々の薬種問屋で、お母さんは水野さんが赤ん坊のころになくなられ、またお父さんも水野さんが十二のときにおなくなりになられて、それから、うちがいけなくなって、兄さん二人、姉さん一人、みんなちりぢりに遠い親戚に引きとられ、末子の水野さんは、お店の番頭さんに養われ」という境遇の……水野さんのことばかり考えて、さき子は毎日暮らしていました。
 それがある事件をきっかけに、急に小説の内容が変じます。
「私を牢へいれては、いけません」という発言から、なまなましい「さき子」の思いが描きだされていました。太宰治は作家になるまえに、無理心中をしようとして愛人を犠牲にしていて、そこに罪の意識があったはずで、このように罪人の心情を、仔細に記せるのでは、というように思う場面描写でした。
 貧乏で困っている水野さんのために、「さき子」は男性の水着をお店で盗んでしまい、犯罪が見つかって見知らぬ男に平手打ちされ、留置所に連れてゆかれて、恥ずかしい動機を熱弁し、狂い笑い、さらに新聞でさらされるという恥辱の体験を語りつづける、少女の物語、なのでした。本文こうです。
quomark03 - 燈籠 太宰治
 その日の夕刊を見て、私は顔を、耳まで赤くしました。私のことが出ていたのでございます。万引にも三分の理、変質の左翼少女滔々とうとうと美辞麗句、という見出しでございました。恥辱は、それだけでございませんでした。近所の人たちは、うろうろ私の家のまわりを歩いて、私もはじめは、それがなんの意味かわかりませんでしたが、みんな私のさまのぞきに来ているのだ、と気附いたときには、私はわなわな震えました。quomark end - 燈籠 太宰治
 
 「さき子」はあやうく身罷ってしまうほどの恥をかいて、混乱していたところ、水野さんからの親身な手紙をもらい受け、父と母のなんということもない優しさに触れて、じぶんの生きかたを取り戻すのでした。
 

0000 - 燈籠 太宰治

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
 
 ちょっとびっくりするほどすてきな文学作品でした。ほんの十数ページで終わる短編小説でした。