花を持てる女 堀辰雄

 今日は、堀辰雄の「花を持てる女」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 堀辰雄が、父やおじの病について記しています。苦について書いているはずなのに、苦を増幅しないところが、ふだん読む文章とまるでちがっていて文学だと思いました。本文こうです。
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「雪の下がきれいに咲いたものですね、こんなのもめずらしい。……」私はその縁先きちかくに坐りながら、気やすげにそう言ってしまってから思わずはっとした。
目を患っているおじさんにはもうそれさえよく見えないでいるらしかった。しかし、おじさんは、花林かりんの卓のまえに向ったまま、思いのほか、上機嫌じょうきげんそうに答えた。
「うん、雪の下もそうなるときれいだろう。」quomark end - 花を持てる女 堀辰雄
 
 ほかにも、母の若いころのことをよくしらないので仕事はどういうものだったのだろうか、と空想を広げていて、谷崎潤一郎の「吉野葛」のようなことを考えていたりします、華やかなのかそうではないのか……。堀辰雄は、父だと思い込んでいた人が養父だった、という事態を丁寧に記しています。生老病死だけを書いているはずなのに、不安な気配のまったくないことに驚きました。みごとな自伝的小説でした。
 

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新しい読書法2

明かりの本は、0円オーディオブックを100冊以上公開しています。iphoneで「明かりの本」のオーディオブック機能を使う方法を説明します。3つの行程で使えます。慣れてしまえばとてもかんたんな読書法です。なおこれは、青空文庫やkindleアプリでも使える方法です。
  
■ 行程1
ケータイで「明かりの本」akarinohon.comにアクセスし、装画をクリックして縦書きの本文を表示します。

■ 行程2
人差し指と中指の二本指を「閉じたピース」状態(閉じたチョキ)にして、画面のいちばん上から下にスワイプします。そうするとAIの自動音声読み上げが開始されます。
くわしい「スマホの読み上げ」の操作手順は、こちらのAbroader氏の解説動画を見てください。「読み上げ」がはじまらない場合はスマホの設定を変更します。(設定方法が分からない場合はこちら

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本文以外を読み上げてしまう場合は、画面中央のsankakuip01 - 新しい読書法2ボタンを数回(2回〜5回)押すと、本文の読み上げが始まります。

■ 行程3
人工知能が、「明かりの本」の電子書籍を青色でつぎつぎにマークアップしながら全文を読み上げてくれます。ときおり画面の左下あたりをクリックしながらページをめくり、さいごまで耳で聞き進めることができます。イヤフォンかAirPodsを使ってみてください。タブレットもオススメです。iPadがいちばん使いやすいです。

(明かりの本の下部がしっかり表示されない場合は、ケータイをクルッと2回転するとちゃんと表示されます)

Androidケータイを使っている人も、同様の方法で「明かりの本」オーディオブックを楽しめます。PCだけを使ってオーディオブック機能を使いたい方は、こちらをご覧ください。ケータイのゲームやSNSに飽きてしまったら、ぜひ「明かりの本」の0円オーディオブックを楽しんでみてください。
以上でiPhone読書術の解説を終わります。

howtoipart02 - 新しい読書法2

『kindle アンリミテッド』を使って古典や名作を読む方法は、こちらをご覧ください。
 
    

ゲーテ詩集(13)

 今日は「ゲーテ詩集」その13を公開します。縦書き表示で読めますよ。
 今回の「三月」というのは自然な恋愛詩で、まだ冬の去らない時期に恋人の幸福について描いています。恋人だけのための詩にも読めるのですが、まだ冬が終わらない1人の人間の視点から幸福を思い描いているのが、自然な共感を生んでいるように思いました。「燕でさへも嘘をつく」という言葉の意味が謎で、なんだがすてきな詩でした。
 

0000 - ゲーテ詩集(13)

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全文を読むにはこちらをクリックしてください

生物学的の見方 丘浅次郎

 今日は、丘浅次郎の「生物学的の見方」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 近代日本では、生物学的な観察が欠落しているので、この見方を伝えたい、という随筆です。生物学的なものの見方というのは、それは人間をれっきとした動物として見る、ということで、そう言われれば、コロナ対策はこの、ツバをかけないとか、顔を洗うとか、手を水で洗うとか、潜伏したウイルスがどうなるか何日間かおこもりをして様子見をするのが重要だとか、けっこう原始的な対策をしていったわけで、生きものとしての人間をよく認識することも重大だったわけで、100年前の学者の随筆なのに、今でもちゃんと役立つのがすごいなあと思いました。
「たとえば成人の頭骨の側面には耳殻じかくを動かすべき筋肉がいくつもあるが、何故なにゆえかかる不用の筋肉がここにあるか」というと人間の胎児と魚には、同じ耳の穴の構造がある、という指摘があり、人類はほかの動物と共通しているところが多い、と分かります。人類のみがとくべつなのではないですよ、ということを記しています。そこから、うぬぼれる人間の問題点を指摘しているのが、なんだか笑う内容でした。うぬぼれを減ずるには、他の人から自分を見て、動物の視点から自分を見る……。さらに、多様な方面から人間を見てみようと、具体的に提唱しているので本文をまず読んでみてください。三角法のように、二点から対象をみくらべて、客観的に観察してみる。
 これとおなじように、新しい思潮が生じたときにも、その一点のみに固執するのではなく、生物学的にものを見る習慣を持って「いかなる生物が存し、いかに生活しているかを学」び、多角的な観点から観察をする心構えでいれば「極端の空論に走ることを防ぐこともできよう」と述べていました。ネットで本ばっかり読んでいても人生すすまないかも……とか思いました。ただこれちょっと、ほかの随筆も読んでみたいです。
 

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五月の詩 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「五月の詩」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾と言えば、戦後になってから特攻隊の死と生について論じた、武士道の次の世界について描く、迫力のある作家だと思うんですが、今回は、武士の物騒なはなしから随筆がはじまります。現実に起きたおそろしい話もしていて、これって怪談のつもりではなく書いているのが、なおさら怖いと思いました。度胸だめしで、無理をしすぎて恐ろしいことが起きてしまうことをいくつか記しています。坂口安吾の「いくら僕が馬鹿でも、そんな意地は張らぬ」という記載が妙に印象に残りました。
 戦時中の新聞をまとめて読んでみるということをしたことがあるんですけど、このころの新聞は防衛論も非論理的でひどいものなんですけど、これを戦中なのにしっかり批判出来た作家は、ほとんど居ないように思うんです。坂口安吾はそのへんもはっきりと批評していて、時代を超える人は……すごいもんだと思いました。
「日本といふ国は変な国なんだ」という指摘とその前後に読み応えがありました。
 坂口安吾はぜったいにこの随筆で感動をもたらそうとしていないはずなんですが、安吾の怒り、不遇の者の心情を慮る態度に感嘆せざるを得なかったです。こんな危険な時代に、どうして無事でずっと太く生きられたんだろうかと、思いながら読みました。悲惨な戦争が終わるまであと3年もかかる、1942年の随筆でした。

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死せる魂 ゴーゴリ(3)

 今日は、ニコライ・ゴーゴリの「死せる魂」第3章を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 主人公のチチコフは詐欺師なんです。これが明記されるのが全体8%あたりの第1章さいごの行です。名作ではよくある、信用の出来ない主人公(道化のような主人公)の目を通して、異化された世界をのぞき見てゆく、という仕組みなんです。前回、亡くなった農奴たちを買い取る、という謎の仕事に成功したチチコフは、次の大地主ソバケーヴィッチのところへ、従者とともに馬車で向かっています。ところが酔っ払いの部下が運転する馬車が横転し、貴族チチコフは泥まみれになってしまいます。
 夜もふけて雨も激しく、野宿することもできない状態で、まったく見知らぬ村に迷い込みます。よく見ると、意外と裕福な農村なんです。そこでチチコフは、大きな屋敷に入り込んで泊めてもらい、翌朝になると、ここでも謎の仕事をしてやろうと思いつきます。
 二〇〇年ほど前のロシアでは、権力をもつ人に対してペコペコしてしまう習性があるらしいです。ほんとうなのか分からないんですけど、ゴーゴリはそう記しています。ただの冗談なのかもしれないんですが。本文こうです。
quomark03 - 死せる魂 ゴーゴリ(3)
 ロシア人の中には、相手が農奴を二百人もっている地主と、三百人もっている地主とでは、話し方をすっかり変え、三百人もっている地主と、五百人もっている地主とでは、又まるで違った話し方をし、五百人もっている地主と、八百人もっている地主とでは、これまた別な話し方をするといった名人がいる。quomark end - 死せる魂 ゴーゴリ(3)
 
 ギリシャ神話の神プロメシュースのごとく振る舞っていた男が、じぶんよりも地位(またはお金)がある人にでくわすと「蠅よりも更に小さい、砂粒ぐらいにちぢこまってしまうのだ」というんです。
 
 ぼくはまだこの物語がどういう転結に至るのか知らずに読んでいる最中なんですけれども、チチコフはとにかく、死んだ農奴を、譲れるだけ譲ってもらって、雇えるだけ雇ってしまいたいと、考えているようです。買えるはずのないものを買うつもりでいる詐欺師なんです。魂を買うつもりなのか、なにをどう盗むつもりなのか。どういう罪を犯すつもりなのか、謎めいているのでした。本文では、死んだ農奴を買うくだりはこう記されています。80人くらいの農奴をかかえる村の女主人がこう言うんです。
「役人がやって来ては、人頭税を払えって言いますだよ。農奴は死んでしまっているのに税金だけは生きているとおりに取りたてるのです」という女地主ナスターシャ・ペトローヴナにたいしてチチコフは死んだ農奴を「十五ルーブリ」で買い取り「納税の義務は残らず私が引き受けるのです。そのうえ、登記も」済ませると言うんです。ところがどうも怪しい取引なので、ペトローヴナおばあさんはどうも気が進まない。
 
 これ……現実にもしこういう人が居たとしたら、どうかんがえてもチチコフと関わるべきではないんですよね。小銭が手に入るとしても、どうしてもなにか、言いようのない疑心というのが生じます。説明できないんだけど、逃げたほうが良い、という状態なんです。詐欺の仕組みは分からなくても、分からないなりに断ったほうが良い、という提案をされるんです。本文では、おばあさんはこう言います。
quomark03 - 死せる魂 ゴーゴリ(3)
 「それがねえ、どうも、まるで聞いたこともないような、おかしな商いだもんでね!」
 ここでチチコフは、すっかり堪忍袋の緒をきらしてしまい、腹立ちまぎれに椅子を床に叩きつけざま、悪魔を引合いに出して老婆を罵った。quomark end - 死せる魂 ゴーゴリ(3)
 
 おばあさんはまっ青な顔をしてしまいます。ひどい状態です。チチコフの本性がこの、第三章の中盤から見えてきます。ついに大ウソを言っておどしてくるんです。「キリスト教徒としての博愛心から、あんたのためを思って言い出した」「とっととくたばってしまうがいい、お前さんの持村も一緒に滅びてしまうがいい」こんな怒りの言葉を吐きます。
 怒っている人にたいして、つい不快でめんどうなので、異常な提案を受け入れてしまうんです。死んだ農奴を売り払うということに同意してしまう。怒っている人の要求というのが通ってしまう。こういう人からはさっさと離れて何も言わないというのが最善策だと思うんですが、相手は押し売り以上に強引なので、悪い話しを聞き入れてしまった。どうして通ってしまったのかというと、大きなお金がどうも動きそうだからです。女主人はちょっとした欲が出てしまったんです。そこをつけ込まれてしまいました。
 チチコフはヤバイ男なんです。その気にさせるのが上手いんです。飴と鞭を使い分けて相手を翻弄してしまう。いろんなものを買い取りますよと言うんです。「買いますとも、ただ、今じゃなく後でね。」「買いますとも、買いますとも。何でも買いますよ」と言うんですが、いっこうに金は払わないわけです。
 安定した儲けの出ていない自分としては、人ごとではない描写に思いました。こんな口のうまい詐欺師に出会ったのは運が悪かったと思うしかないのか、あるいはもっと注意深く相手を疑って生きる必要があるのか、なんだかよく分からない、謎の領域にチチコフが立っているんです。もっと正直にイヤなものはイヤだと言ってあっさり断って、去ってもらえるはずなんですが。チチコフはけっきょく、死せる農奴たちを買い取って、次の町へ向かうのでした。いったいどういう詐欺なんでしょうかこれは。今のところ、ぼくにはよく分からないです。
 

0000 - 死せる魂 ゴーゴリ(3)

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ゴーゴリの「死せる魂」第一章から第十一章まで全部読む
 
ゴーゴリの「外套」を読む