わが青春 三木清

 今日は、三木清の「わが青春」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは思想家の三木清が、若いころの日々について記した随筆なんですが、恩師の西田幾多郎のことや、当時読んだ歎異抄のことなど、情感の豊かな自己省察を描くとともに、これからどのような本を書くかについても記していました。おおよそ百年前の思想家たちの随筆に、こういうすてきな作品があるのかと、驚きました。この一文が印象に残りました。
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  この時代に私は学生であったことを、誇りと感謝なしに回想することができない。quomark end - わが青春 三木清
 
 京都の大学の哲学徒の、奇妙奇天烈さを思いだして書いていたり、当時の学派の詳細などを記しています。「波多野先生からはギリシア古典に対する熱を吹きこまれ、深田先生からは芸術のみでなく一般に文化とか教養とかいうものの意味を教えられた。(略)特に記すべきものは坂口先生から受けた影響である。先生の『世界におけるギリシア文明の潮流』という書物を初めて読んだときの感激を今も忘れることができない」大正時代の始まりのころの随筆です。
 

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幻の塔 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「幻の塔」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これはなんだか暗い事件が起きる小説で、ネタバレ禁止の内容だと思うので、近日中に読み終える予定のかたは、先に本文を読むことをお勧めします。廃仏毀釈が激しい時代に、仏像を買い集めては売り歩き、さらに仏像を彫って大金を得た「ベク助」、このベク助というのが危険な男なんです。かつては「人殺しと牢破り」を行った、背中には天下一品の「ガマと自雷也」の入れ墨を彫っている極悪人で、この男が牢破りののちに熊に襲われて人相が変わって、ベク助という名前の、大工として生きていた。
 いっぽうで勝海舟の家の近くに「島田幾之進という武芸者が住んでいた」のですが「白頭山の馬賊の頭目」だとか「海賊」だとか言われた人たちがここに道場をひらいた。島田一族は「黄金の延棒が百三十本ほどつまって」いる大袋を手に、この新設の道場にやって来た。
 ものすごい武芸者が修業をしているこの「島田道場」には奇怪な秘密があって、この道場を建てるときに、忍者屋敷のような「縁の下から抜け道をつけてもらいたい」ので、秘密を守れる大工というのを特別に呼びよせたのでした。中盤からベク助は素性を偽って、この島田道場に耳の不自由な大工として雇われて、島田一門の秘密を暴くことにしたのでした。
 どうも、素性を偽っている怪しい人間は他にもいろいろいる。仏師や大工としての才覚があるベク助は、「怪物」の島田幾之進に頼まれて、道場に秘密の仕掛けのある「小さな別宅」をつくりあげた。
 ベク助はこれで島田道場から離れていったのですが、秘密裡に、この道場の秘密を探っていたんです。
 この島田道場での「婚礼の夜」に、誰もが酔いつぶれていて「誰にも明確な記憶がない」という状況で「怪物の邸内で奇怪な」事件が起きてしまった。「お紺の父の三休と兄の五忘」が「密室殺人」で亡くなってしまい……警察と、隣家の勝海舟と、その親友の探偵である「結城新十郎」がやって来ます。
「父と兄が麻の袋をぶら下げてい」たという証言があった。かつて「島田幾之進」は、この新道場にやって来たときに「革の行嚢に金の延棒を百三十本ほどつめこんでぶらさげて来た」ということだったが、この金の延べ棒がどこに行ったのか分からない。
 真相としては……犯人は召使の金三で、「金三はベク助が三休、五忘の命令で縁の下に抜け道の細工を施したのを見ぬいていました。金三は忍びこむ五忘らを地下の密室で殺す必要があった。(略)それは当家に犯人の汚名をきせるためと、たぶん、金の延棒の発見、没収を策すためでしたろう」ということを探偵が暴くのでした。それで「金の延棒の隠し場所」はじつは「皆さん一番よく見ていたもの。あんまりハッキリ見えすぎるので、気がつかなかった」「まぼろしの塔」とも言いえる、道場の特殊なつくりなのでした。見えすぎていて見えない、という仕掛けがあったのでした。「道場の土間の敷石をごらんなさい。それがみんな金の延棒なのです」というオチでした。
 この島田一門の正体というのは、冒頭に記載されているように「白頭山の馬賊の頭目」で「シナ海を荒した海賊」で、事件後しばらくして、また何処かへと去っていったのでした。
 

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秋の瞳(3)八木重吉

 今日は、八木重吉の「秋の瞳」その3を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 孤独な夏の夕暮れの詩が印象に残りました。八木重吉は肺の病に苦しみながらも、恋愛や婚姻や詩作に生きた詩人なのだそうです。
 

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二人の男と荷車曳き 夢野久作

 今日は、夢野久作の「二人の男と荷車曳き」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 夢野久作といえばとにかく無茶苦茶なことをどこまでも書ききるという作家だと思っていたんです。こんかいの短編では、ほとんど異変らしい異変は起きない、すぐに終わる掌編なのですが、氏の「ドグラマグラ」や「少女地獄」がなぜ書かれたのか、その謎の解明になりそうな二つの事柄が記されているように思いました。力自慢の男二人が決闘をするときに、なぜかはじめに銃撃戦になって、能力がまったく互角であるために、弾丸がどれも中空でぶつかり合ってしまって無効化されるという、近代小説にしては珍しいメタ的な展開があるというのと、中盤後半でトリックスターの役割として出てくる「荷車曳き」が、力自慢の二人を操って——彼が自分の意図をさいごに明かします。「ててお出でになる無駄な力を拾っただけです」という……これがじつは「ドグラマグラ」の執筆を可能とした、動機の一部でもあったのではと、いうように空想しました。
 

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改めて民藝について 柳宗悦

 今日は、柳宗悦の「改めて民藝について」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは民芸論について記した随筆です。道元の思想をまず書くことから始めています。道元の言葉の「空手にして郷に還る」ということの逸話と、「柔輭心にゅうなんしん」の考えについて書いていて、民芸を評するにあたっても、道元のように「空」と「柔輭心にゅうなんしん」というのを重んじて、民芸を考えてみる、ということを述べていました。
 それで、民芸というのはなにかというと、美術や伝統工芸とはなにか違うものがあって、この魅力をあとから総称して「民芸」と呼んだ。柳宗悦は、民芸とはなにかということを、本文にこう書いています。
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 ただじかに見て美しいと思ったものが、今までの価値標準といたく違うので、後から振り返ってみて、それが多く民衆的な性質を持つ実用品なのに気づき、総称する名がないので、仮に「民藝」といった(略)民藝の美を「貧の美」といってもよいが、この「貧」は「私に染まぬ平の心」に他ならぬ。quomark end - 改めて民藝について 柳宗悦

「在銘の作を作る時より、無銘品を作る時に、もっと自由さを持つであろう」という指摘が印象に残りました。

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細雪(49)谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その49を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 前回、東京の様子を見てきた幸子の家族は……、今回から関西に戻ってきてまた静かな暮らしを再開するのでした。
 関西と東京を比べてみて、百年前の東京はとかく「ほこりっぽい、白ッちゃけた」都心であって、これは当時の映像をみると納得のゆく記載に思いました。百年前は土の道に、有り得ないような密度の人々が歩いていて、馬車も自動車もせわしなく、埃が舞い続けているような場所なんです。
 幸子と妙子は、フランス語を学ぶことにしようかと、家庭教師のマダム塚本にこれを習うことにするのでした。
 このまえ幸子が受け取った、妙子の交際にかんする不吉な手紙のことも、続きが記されていました。
 妙子の作った人形を鑑賞しながら、幸子は、妙子の男女交際について聞いてみるのでした。
 妙子は、板倉と奥畑啓坊とで、どちらときちんと交際をするのか、ということを心配されています。板倉は災害時に妙子を助けたので、妙子は彼のことを恩人だと考えています。ただ板倉は生活が不安定なので、蒔岡4姉妹の妙子とは結婚ができそうに無い状態なんです。恋愛や交際の相手となると奥畑啓坊が相応しいんです。ところが「啓ちゃんは不倫をしているので、妙子も不倫をしているように勘違いしている」ということを妙子は言うのでした。
 交際となるとやはり妙子は「啓ちゃん」と進めてゆくのでは、という印象でした。ただ妙子はそのことよりも、一人で一年間ほど洋行をして、もっと人形作りとデザインをしっかり学びたいということをもっとも希望しているのでした。ただ、フランスにも大きな戦争の気配が迫っているので、洋行も難儀するかもしれない、ということが語られました。
 

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)