スミトラ物語 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「スミトラ物語」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 飴売りのスミトラおじいさんが語るふしぎな物語を、豊島与志雄が記しています。手品師5人でサーカスの旅芸人をやっている。その手品がすてきだったので15歳の少年「私」はこれに弟子入りして、諸国を漫遊する。この少年はもともと薬草の研究をしている家の出で、そのために旅先でも薬草を集めて研究をしていた。これで人を助けたりした。旅先で薬草使いとしての才覚が話題となり、海賊に気に入られてさらわれてしまう。海賊たちのねぐらから脱走するにはどうしたものか……。この海賊の首領がほんとに意外でおもしろかったです。豊島与志雄が興味を持っている生き方は、このガルーダみたいに立場を越えて次の時代へと進んでゆく人なのでは、と思いました。こっそり出てゆく、という場面がすてきでした。
 

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吉野葛 谷崎潤一郎(4)

 今日は、谷崎潤一郎の「吉野葛」その4を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは不思議な作品で、谷崎潤一郎と芥川龍之介の論争でも生じた問題をこんかい多分に孕んでいて、話のスジはいったいどうなったんだとか、物語のドラマツルギーはどこにいったんだ、というような感じの奇妙さがあって、これは映画で言うところのコメンタリー動画みたいになっているんですよ。小説を書く時はこういう取材や問いかけをたぶんするんだろうなと、読んでいて思うんです。注釈のほうが本題になっているような感じです。本作を読まずに、えんえん序文を読んでいるような、そういう不思議な本なんです。映画制作の舞台裏を取材したドキュメンタリー映像みたいに、なっています。本作が出てこない。
 谷崎潤一郎は完成度の高い架空人物と事件背景を描くのが特徴のはずなんですけど、今回のはそういう話しじゃ無くて、谷崎潤一郎にそっくりな主人公が、吉野の歴史的物語の謎を追っている。主人公が気になっていることを、作中でそのまま書き記している。奈良は吉野の「菜摘の里」や吉野川が舞台です。主人公「私」は、十七世紀の儒学者貝原益軒かいばらえきけんの記録を読みながら、聖地巡礼みたいなことをしている。千本桜の作者はなにをもって創作のアイディアを得たのか、それを考えつつ吉野川を散策している。万葉集もこの吉野川のことをいろいろ書いている。この文学的な旅は、古い友人の津村の誘いで、「私」と2人でおこなっている。津村は小説をやってみたいけどとくに小説を発表していない男なんです。津村の商売はまあまあ上手くいっていて、日々に空き時間があって、それで文学的なことが気になっているわけです。
 その津村が自分の幼い頃の家族の問題を語りはじめたところから、急に興味深くなります。津村は幼い頃に父母を亡くしていて、母の顔をほとんどまったく知らない。知らないから想像力を働かせるんです。祖母から聞かされた話をしはじめます。自分の古い記憶と、文学とが共鳴をしている……。
 具体的には「葛の葉物語」の「葛の葉子別れの段」の部分です。
 記憶の届かないところに父母がいるわけで、そこで欠けた部分に金継ぎをして芸術とする伝統工芸のように、文学が記憶の中に入りこんでいって繕われてゆく。本文こうです。
quomark03 - 吉野葛 谷崎潤一郎(4)
 取り分けいまだにおもい出すのは、自分が四つか五つのおり、島の内の家の奥の間で、色の白い眼元のすずしい上品な町方まちかたの女房と、盲人もうじん検校けんぎょうとがこと三味線しゃみせんを合わせていた、———その、ある一日の情景である。自分はその時琴をいていた上品な婦人の姿こそ、自分の記憶きおくの中にある唯一ゆいいつの母のおもかげであるような気がするけれども、果してそれが母であったかどうかは明かでない。quomark end - 吉野葛 谷崎潤一郎(4)
 
 安倍晴明の母はどうして狐なのか。母がキツネというのはいったいどういうことなのか? その謎も谷崎が探究しています。今回の後半、ほんと読んでいて面白いんですよ。わらべ歌の謎解きでもあります。
 谷崎潤一郎とその友人津村の、童話や古典浄瑠璃の作劇における、「狐」が美女や恋人に化けるその意味の解析がみごとでした……。
 「吉野葛」を全文は読まないけれども、どういうことが書いているのか知りたい場合は、こんかいの「その四 狐噲」中盤から後半の、津村の告白部分を読んでみることをお勧めします。
 

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夜店ばなし 久保田万太郎

 今日は、久保田万太郎の「夜店ばなし」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 コロナ禍が起きた現代では、夜店の屋台の飯を食って歩く人もずいぶん減ってしまった。時代がちがう本は、今の悩みと異なる世界を描いているので、これがなんだかありがたいように思いました……。
quomark03 - 夜店ばなし 久保田万太郎
 すしやの屋台、天麩羅やの屋台、おでんやの屋台。……夜店へ出るそれぞれの屋台が誓願寺の地中から一トしきりそこにつづいた。quomark end - 夜店ばなし 久保田万太郎

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追記
ところで作中に記されていた東京の蝙蝠。これこの、コウモリというのがいま日本で減っているようです。

あひるさん と つるさん 村山籌子

 今日は、村山籌子の「あひるさん と つるさん」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この童話は……子どもが失敗をしてるんですけど、そこで親が子どもの願いを壊さないように工夫をしているのが、なんだか上手いと思いました。親心がある人の話ってこういう感じなんだ、とか思って感心しました。
 

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晶子詩篇全集拾遺(73)

 今日は、与謝野晶子の「晶子詩篇全集拾遺」その(73)を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 近代の貧困を描いた詩は、ロシアの寒冷地を描いているかのような迫力がありました。それから自然界の美しさを描く詩が印象に残りました。quomark03 - 晶子詩篇全集拾遺(73)
 燦爛として心光る。quomark end - 晶子詩篇全集拾遺(73)

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ネクタイとステッキ 佐藤春夫

 今日は、佐藤春夫の「ネクタイとステッキ」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 現代人で、機能性を逸脱した洒脱なステッキをついている若者は見たことが無いんですが、日傘はふつうに存在します。ファッションショーにはたしてステッキは存在するのか、調べてみると、海外ではかなりメジャーなアイテムのようで、いろんな写真が出てきました。日本にはほとんど無いようです。ただ、近代小説にはステッキを持っている登場人物が描かれているんです。漱石の『彼岸過迄』では洋杖が出てきます。たぶん昔は荒れた場をどんどん歩きまわることの象徴がステッキだったわけで、ステッキにワンダーを感じた。今ではインスタ映えする写真が100年前のステッキの意味を継承しているんだろう、と思いました。

 

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