溺れかけた兄妹 有島武郎

 今日は、有島武郎の「溺れかけた兄妹」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「友達のMと私と妹」の3人は、穏やかな海で遊んでいたのですが、土用波にもってゆかれて溺れかけてしまった。なんとか砂浜に戻るのですが、妹は泳ぎきれずに戻れなかった。Mさんはけんめいに助けを呼んで溺れかけた妹を助けてもらえたんですが「私」は茫然自失してしまって、けっきょく妹を見捨ててしまったような状態になってしまった。これは実話っぽい教養小説なのでは、と思いました。
 

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最後の一文はこうでした。「あの時ばかりは兄さんを心から恨めしく思ったと妹はいつでもいいます。波が高まると妹の姿が見えなくなったその時の事を思うと、今でも私の胸は動悸どうきがして、そら恐ろしい気持ちになります。」
   

ゲーテ詩集(58)

 今日は「ゲーテ詩集」その58を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 今回は魔法と悪魔的な事態が描かれた、蠱惑的な一篇でした。
     

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渡り鳥 太宰治

 今日は、太宰治の「渡り鳥」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは太宰治そっくりな作家が、あまり見覚えの無い青年と一緒に横丁の飲み屋で気持ちよさそうにくだを巻くという、短編小説なんですが、太宰治の二枚舌の軽妙さに痺れる作品に思いました。作中で思ってることの記載と、喋っている箇所とが、なんだかまったく違って二面性があるんです。「趣味というものは、むずかしいものでしてね。千の嫌悪から一つの趣味が生れるんです。趣味の無いやつには、だから嫌悪も無いんです。」……という一文が妙に記憶に残りました。
   

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怪異考 寺田寅彦

 今日は、寺田寅彦の「怪異考」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 幽霊やUFOの話しを聞いていて、たぶん実体験を元にして話しているはずで意図的な嘘を言っているわけではないのに、現実には存在しないことを言ってそうに思うことは多いんですが、寺田寅彦はこういった怪異の発言について、まずこのように考察します。
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  身辺に起こる自然現象に不思議を感ずる事は多いが、古来のいわゆる「怪異」なるものの存在を信ずることはできない。しかし昔からわれわれの祖先が多くの「怪異」に遭遇しそれを「目撃」して来たという人事的現象としての「事実」を否定するものではない。quomark end - 怪異考 寺田寅彦
  
 述べている人の、訴えたい心情は理解できるけれども、事象としてはありえないだろうと判断していて、さらにこの誤認の現象はなぜ起きたのか、をさらに論考してゆきます。見まちがいや勘違いの仕組みを読み解いています。見間違う、判断し間違う、言い間違う、聞き間違う、読み間違う、推測しそこなう、といったあらゆる間違いのフィルターを除去していって、じっさいにはどういうことがあったかを空想してみて考察する。
 よく、歴史家や研究者や記者は、とにかく足を使って事態を調べて、一次資料を重んじて、「又聞きの又聞き」みたいな存在である三次資料をほとんど重視しないらしいんですが、寺田は今回、二次資料や三次資料を元に考えるにはどうしたらいいのかを、今回書いています。
quomark03 - 怪異考 寺田寅彦
 錯覚や誇張さらに転訛てんかのレンズによってはなはだしくゆがめられた影像からその本体を言い当てなければならない。それを的確に成効しうるためにはそのレンズに関する方則を正確に知らなければならない、のみならず……(略)quomark end - 怪異考 寺田寅彦
 
 これについて論考するには、空想の小説の形が良い、と寺田寅彦はいうのでした。小説にはそういう機能があって、そういえば歴代の古典の哲学者も、小説形式で哲学を展開したなあ、と思いました。それで全体30%の序盤から小説が記されます。高知県の荒海のそばで「ジャン」という怪音を轟かせる怪物が現れる、というんです。この記録はあまたに残っている。大森博士をはじめ幾人かの人々がこの記録を調査した。海峡の近くを走る断層線で、なにかの地鳴りが起きて、これと荒海の印象が、この怪しい「魔物」を生じさせた原因ではないかと、いうように記していました。くわしくは本文をご覧ください。
 

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追記  もう一つの「怪異」「小説」は「ギバ」という魔物について記したもので、「玉虫色の小さな馬に乗って、猩々緋しょうじょうひのようなものの着物を着て、金の瓔珞ようらくをいただいた」女が馬を襲うんだという、伝承について読解していました。読み方としては正しくないんですが、すごい妖怪の擬古典漫画で魅力的な作品でした……。寺田は草原で起きる夏の放電現象が原因ではないか、と指摘しているのでした。
  

細雪(34) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その34を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 学校に行ったまま、安否が分からなくなった妙子を探して、父の貞之助は洪水が起きている本山駅の周辺を歩きつづけています。大河が氾濫したかのような「川でなくて海、———どす黒く濁った、土用波が寄せる時の泥海である。」けっきょく貞之助は大水によって立ち往生している汽車の中に入りこんで、水の引くのを待つしか無くなった。
 駅の中に避難している人々の描写が、ほんとうに谷崎がこの現場を見て帰ってきて書いたような、克明な描き方でした。なぜか線路のところに、どこかの犬が洪水と雨の中を迷子になっていて、これをみんなで助け出し、貞之助は家から持ってきていたブランデーを飲んで煙草を吸う場面がありました。半島の家族たちが汽車の中で避難している描写があり、妙子の通っている小学校が遠くに見えるけれども、大水のためにどうにもならない。今まで楽しそうだった学生も「事態が笑いごとでなくなりつつある」状況に疲弊しはじめている。「窓の外では濁流と濁流とが至る所で衝突し」ている。妙子のことを思って、貞之助はこう感じます。「今から一箇月前、先月の五日に「雪」を舞った時の妙子の姿が、異様ななつかしさとあでやかさを以て脳裡のうりに浮かんだ。」 数時間ほどしてやっと水がすこしだけ引いてきた。この前後の描写がみごとだと思いました。
quomark03 - 細雪(34) 谷崎潤一郎
  一心に外を見守っていた間に、はっと胸を躍らせるようなことが起っていた。と云うのは、いつの間にか線路の南側の方の水が減って行って、ところどころ砂があらわれて来たのである。反対に北側の方はいよいよ水が殖え、波が上りの線路を越えて、此方の線路へ打ち寄せつつあった。
「此方側は水が減ったぞ」
と、生徒の一人が叫んだ。
「あ、ほんとうだ。おい、これなら行けるぞ」quomark end - 細雪(34) 谷崎潤一郎
  
 まだ濁流が続いていて油断できない状況で、妙子の女学校にようやっと辿りついた貞之助なのでした。次回に続きます。
  

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当サイトでは『細雪 中巻一』を通し番号で『細雪 三十』と記載しています。『中巻三十五』は通し番号で『六十四』と表記しています。
 
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
  
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
 
 

夏の葬列 山川方夫

 今日は、山川方夫の「夏の葬列」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは、はじめ見知らぬ村の葬列を目の当たりにするところから物語が始まるんですが、他人の葬儀のお饅頭を欲しがる、軽薄な少年の奇妙な描写があって、30%あたりの中盤から、意外なことが起きます。読み終えてみると納得のゆく物語展開なんですが、なにも知らずに読んでみると、なんだか唐突な展開で妙なものに思いました。後半で、戦時中に被害を受けた少女がどうなったのか、この記憶と事実を探る男の思惟が描かれます。死にかけた少女がじつはそのあと十数年は生きていたということを知った歓びのあとに、悲しい事実が明らかになります。良い未来と悪い未来を重ね合わせて見ることになる。実体験から少し離れたところで、事態を観察していた作家のまなざしが鋭いように思いました。物語の筋が分からない箇所があったので三回読んでみて、作者の構成の妙に唸る作品に思いました。
  

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