今日は、芥川龍之介の「あの頃の自分の事」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
これは序文に、実話をただ単簡に書いたものだ、と、私小説のように書いた作品だ、と記しているんですが、学生時代の文学活動について書いています。けっこういろんな作家のことが記されていて、シェークスピアから田山花袋、ロマンロランに、ドストエフスキー、谷崎潤一郎、永井荷風、テオフィル・ゴーティエ、ボードレール……あと武者小路実篤氏の作品と思想についてことこまかに記していました。
芥川龍之介が『鼻』を書いている頃の、文学活動についていろいろ書いていました。
後半で、喫煙室に偶然やって来た谷崎潤一郎のことを書いています。谷崎潤一郎と芥川龍之介は、文学批判の応酬をしたことで有名なんですけれども、その前段の関わりと、前期谷崎作品に対する寸評が記されているというように思いました。谷崎のほうが5歳くらい年上で5年はやく作家になっているんですけどほぼ同年代というように思います。
本作では「鼻」を書いた時期に「財布」という作品も書いたらしいのですが、ぼくにはこの題名の作品がどこにあってどういう作品なのか、分からなかったです。芥川の作品には「財布」に関してこういう記載があります。
クリストの財布(略)クリストの収入は恐らくはジヤアナリズムによつてゐたのであらう。が、彼は「明日のことを考へるな」と云ふほどのボヘミアンだつた。ボヘミアン?――我々はここにもクリストの中の共産主義者を見ることは困難ではない。しかし彼は兎も角も彼の天才の飛躍するまま、明日のことを顧みなかつた。「ヨブ記」を書いたジヤアナリストは或は彼よりも雄大だつたかも知れない。しかし彼は「ヨブ記」にない優しさを忍びこます手腕を持つてゐた。この手腕は少からず彼の収入を扶けたことであらう。彼のジヤアナリズムは十字架にかかる前に正に最高の市価を占めてゐた。しかし彼の死後に比べれば、――現にアメリカ聖書会社は神聖にも年々に利益を占めてゐる。……(続西方の人より)
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