ボロ家の春秋 梅崎春生

 今日は、梅崎春生の「ボロ家の春秋」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは不思議な小説で、不破という詐欺師にだまされた2人の男が、被害者同士のはずなのに、お互いにいさかいを巻き起こしつづける、なんとも妙な物語でした。善と悪、加害と被害というように、二元論では説明できない事態が次々に起こるんです。詐欺の手口としては、現代でも起きている地面師に似た事件が起きているんですが、この物語では、被害にあった2人がなぜか、中途半端にその詐欺師の家をゆずり受けてしまうところがとても妙で、いったい住む権利というのがどこにあるのか、分からなくなってゆくところが奇態でした。孫悟空にそっくりなソンゴフウという妙な男も登場して荒唐無稽なところもあるんですけれども、賃貸ぐらしをしている自分としては、あんまり笑えない小説でした。
 被害者だから全面的に肯定できるわけでも無い、加害者だから全否定すべきというものでも無い、複雑な状態が記されてゆくのが印象深く思いました。主人公は画家で、もう1人の野呂は物語作家で、2人はともに無名な芸術家なんです。作中に記される「僕はあれこれと題材に迷った揚句、ついに野呂の顔をテーマにして制作を開始したのです。しかしやはり芸術というものは、憎悪を基調としては成立出来にくい」という記載に、この梅崎春生という作家の本音が零れだしているように思いました。悪い技法についてはちゃんと知っておいたほうが良くて、その知識を悪用しないことが大事なんだなとか、作中の展開とは別のことをいろいろ思いました。
 

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