今日は、島木健作の「一過程」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
これは近代の、貧しい農民たちが選挙と地域政治に取り組む物語です。落選後の活動、というふつう見ることの出来ない場面から描かれてゆくのが印象深かったです。
少数派は多数決で勝てない、けれども少数派は正しい政治によって不平等な条件を撤廃に持ちこむ必要がある、という不合理があると思うんです。そこで近代文学者の島木健作はどういうことを書いたのか、というのが興味深かったです。マイノリティーと政治の物語というと、ぼくはジョン・ルイスの『MARCH』という作品が好きで、これは十代向けのCOMICの形式で描かれた書物なんですけれども、二十世紀の黒人は具体的にどのような迫害を受けていてどのように政治運動を成功させたのか、史実の負の側面をどう描いて伝えてゆくのか、その表現方法に関心を持ちました。美談に終わらせないんですけど、マルコムXとキング牧師の晩期を慎重に割愛する、という表現もあって、一巻の終盤が見事だったのと、中盤で描かれてゆくオバマ大統領との描写と、最終巻の物語の帰結の持って行き方に感心しました。
島木健作は、挫折を描きだすんです。現実的な描写に驚く物語なんです。社会運動の物語と言うよりもジョージオーウェルのディストピア小説「1984」に近いところがありました。「一過程」は1935年に書かれたもので、現実にも当時の作家はつねに発禁と隣りあわせで、当時の特高からの迫害をまぬかれて戦争の終わる日を迎えることはとても困難な十年間だったように思いました。この小説は後半で意外な展開があるんです。それから終盤の描写がみごとでした……。
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