虎 久米正雄

 今日は、久米正雄の「虎」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 大げさな身ぶりの大根役者だと思われていて、劇団に入るのもほとんど不可能なくらい才能が無いように見えて、苦労してなんとか入ることが出来た、道化のような生きざまの深井八輔が、やっと役を得たのですが、それが人間の役をもらえず虎を演じる、ということで、台詞もまったく無くって、どうも仲間からバカにされている気もする。
 仕事があるようで、すべき仕事がどうも上手く生じてこない、というところに共感しながら読むんですけれども、彼は駄目人間のようには見えても、家族も居るし、仕事にも熱心で、子どもと動物園で虎の観察に出かけるのでした。
 ただ、こんな道化の端役のために休日返上で仕事に出かけているというのが仲間にバレるのだけは避けたい。知り合いに会うと「カバを見に来た」とか「カバが逆立ちするのを見たいのだ」とか言ってごまかそうとします。
 本文とは関係が無いんですが「この教室にカバが居ない、ということは証明できない」ということを論理学で熱心に主張した若き日の哲学者ウィトゲンシュタインのことをなぜか連想しました。
 檻の中の虎を見るところから後半の記載がちょっと哀れで、おかしくもあり、すてきな読後感でした。
 ぼくは久米正雄の小説を、ほとんど読んだことが無かったのですけれども、これは好きな作品だ、と思いました。大正7年の近代小説です。
 

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追記
ウィトゲンシュタインの論理空間は現実空間とは異なり、ありとあらゆる可能性が存在しうる。「ない」という言語のみが機能しないんです。なので「この教室にカバが居ない、ということは証明できない」という思考上の主張が成立します……。