今日は、母の「芥川龍之介」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
二十世紀の初頭に、日本人の2つの家族が上海に住んでいて、裕福な暮らしをしているはずなんですが、なぜか暗い気配がある。ふっくらと太った丈夫そうな赤んぼうを育てている隣家と比べて、顔色の悪い自分の赤ん坊のことが気になる母の物語なのでした。どういう話しか、分からない展開で、難読書かと思ったのですが、終盤に苦の正体が明らかになるのでした。不幸のあとの数日間の描写があって、この数頁の芥川龍之介の物語構築が印象深く、ふつうなら言葉にならない意識が記されていて、近代日本の純文学らしい作品だというように思いました。
中盤と終盤に描かれるふくよかな赤ん坊は、無辜を象徴するような存在で、芥川龍之介の描いた「蜘蛛の糸」における「ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。」というように描いた極楽と、この赤ん坊は近しい存在としてあるのでは、と思いました。
放鳥、というこの小説が書かれた頃に日本から消えていった、文化のことが描かれるのでした。
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