今日は、堀辰雄の「X氏の手帳」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
堀辰雄は1930年代に多くの小説を書いた近代作家なんですが、読んでみるとなぜだかついこのあいだ書かれたような小説になっているんです。堀辰雄は他の作品でこう記しています。
僕らの方向してきたものは新しい現実主義にほかならない。本当の現実主義は、僕らが毎日触れているためにもはや機械的にしか見なくなっている事物を、あたかもそれを始めて見るかのような、新しい角度と速度とをもって示すことにあるのだ。僕らの作品は一見すると、見知らぬもののごとくに奇異に見えるかも知れない。が、すぐ、それが僕らの日常生活の主題に過ぎないことを発見するに違いないのだ。そしてそれのみが僕らになし得るところの唯一の創造だ。僕らの現実主義と世間のいわゆる現実主義とを混同してはならぬ。「詩人も計算する」より
ちょっと調べてみると本作を書くころに、コクトーやラディケをおもに読んでいたそうです。Tensegrity structureを目の当たりにしたような、不思議な感覚におちいる小説でした。
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追記 自然界から隔絶したものを平然と書けるというのが、食糧難が減退した20世紀中盤以降の資本主義社会から生じた話しだと思うんですが、堀辰雄だけが50年先の未来に生きていたのでは、と思うような小説を書いているように思いました。