今日は、魯迅の「故郷」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
魯迅といえば「阿Q正伝」や「狂人日記」が代表作で、こんどまた再読をしてみようと思います。
都市に出て働いた主人公「わたし」は、子どものころの暮らしかたとは断絶した仕事をしていたはずです。昔のことはほとんど忘れてしまった。それが古里に帰って、三十年前に親しかった閏土と再会するんです。「わたしは閏土が来ると聞いて非常に嬉しく思った」と魯迅は記します。
幼いころの懐かしい記憶が甦る。しかし……閏土はかつてのうるおいある心もちを失っており、生活費を捻出するために貧しい生き方をするよりほかない状態だった。「わたし」はそれをあわれに思って様々なものを与え、彼の苦を慮った。閏土こそが「わたしのあの時の記憶が電の如くよみがえって来て、本当に自分の美しい故郷を見きわめたように覚えた」と言わしめる存在なんです。それが今はもう、「旦那様」と貧民のような関係性になり果ててしまった。閏土と再会し九日後に古里を去るのですが、そこでの閏土との別れのシーンが割愛されているんです。これがかえってもの悲しい。交流にさえ、ならない……。閏土にとって「わたし」は大都市に出て成功した成金のような存在になってしまっている。
「わたし」はけっして都会で裕福になったわけではない。苦労は絶えないんです。
魯迅は両者のことをこう捉えています。
「わたし」は辛苦展転して生活している。
そうして閏土は、辛苦麻痺して生活しているんです。
魯迅はまだ道にさえなっていないところを歩みつづけ、展転して生きる人生を選んだ。そのために麻痺した生き方との訣別の意思があって、それが終盤の物語展開に反映されているように思いました。
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