亡び行く国土 中谷宇吉郎

 今日は、中谷宇吉郎の「亡び行く国土」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 科学者の中谷宇吉郎が、戦後の日本の文化と文明を見渡して、日本の重大な公害が生じる数十年前に、自然界と工業の組み合わせの危険性を考察している作品です。おもに水害と電力問題を論じています。日本の四大公害病、という言葉がまだ生じてくる前に、治水と科学に関する問題を中心にして、自然界を無視して人類が行動し始めていることを憂慮しています。原発は津波や地震や老朽化を無視して建てられないわけで、その科学的考察が権益によってないがしろにされたのがまずかった。中谷宇吉郎のように科学的考察を重んじる人が権力を有していたら、原発が50数基あって核の公害で年間20ミリシーベルトを越える汚染が生じて立ち入り禁止区域ができてしまう日本というのとは、ちがう未来というのが生じただろうと思いました。本文こうです。
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 世の中に、金さえあれば出来るというものは滅多にない。金がなければもちろん出来ないが、そうかといって、金だけあっても出来ないというものの方が大部分である。対人間の問題は、たいてい金だけで片づくであろうが、自然を直接相手にした場合には、金だけで解決される問題というものは非常に少ない。このことはよく頭に入れておく必要がある。quomark end - 亡び行く国土 中谷宇吉郎
 
 科学で自然界の力を読み説いたり、科学で未来の公害を予測して政治に活かすことはちゃんとやらなかった。こういう失敗は現代でもあり得るんだろうなあと思いながら、中谷宇吉郎の熟考された治水論を読んでみました。
 

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答えがある状態で読んでいる読者のぼくと、未来の災害という答えのない問いを問うている中谷宇吉郎とで、ずいぶん思慮深さに差があるなあとか、思いました……。