大阪の憂鬱 織田作之助

 今日は、織田作之助の「大阪の憂鬱」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回の織田作之助は、はじまりの数頁でずいぶん奇妙なことを書いていて、眠る前に珈琲を飲まないと眠れない男がいる、というふつうとまったく逆のことを記してから、大阪の闇市のことを書きはじめるんです。戦争が終わっても、混乱はまだ治まっていないころに「食いだおれの大阪」と言われる大阪で食いものが不足するとどういうことが起きるのか、ということが記されていました。
 どうも妙な随筆で、「大阪の闇市にはなんでも売っている」という噂があるそうなんですが、これもどうもおかしいわけで、当時は食糧不足と物資不足と資産不足で、さらにとうじは配給制度がまだあったので、警察は食材を無断で売ることを禁じていて、何も買えなかったはずなんです。
 そのあとに、煙草を売る商人を警察が取り締まって、大乱闘になったという新聞記事のことが書かれています。織田作之助は前半で述べているように、当人も読者も、現実の疲弊ぶりに憂鬱になっているようなんです。闇市では、大規模な窃盗が相次いでいる。『京都から大阪へ行く。闇市場を歩く。何か圧倒的に迫って来る逞しい迫力が感じられるのだ。ぐいぐい迫って来る。襲われているといった感じだ。焼けなかった幸福な京都にはない感じだ。』
 この前後の記載がすごかったです。今はもうどうやっても誰もたどり着けない、戦後すぐの闇深い大阪が活写される、後半がみごとな随筆でした。以下の文章もなんだか印象に残りました。
quomark03 - 大阪の憂鬱 織田作之助
 いつか阿倍野橋の闇市場の食堂で、一人の痩せた青年が、飯を食っているところを目撃した。
 彼はまず、カレーライスを食い、天丼を食べた。そして、一寸考えて、オムライスを注文した。
 やがて、それを平げると、暫らく水を飲んでいたが、ふと給仕をよんで、再びカレーライスを注文した。十分後にはにぎり寿司を頬張っていた。
 私は彼の旺盛な食慾に感嘆した。その逞しさに畏敬の念すら抱いた。
「まるで大阪みたいな奴だ」quomark end - 大阪の憂鬱 織田作之助
  

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