今日は、寺田寅彦の「徒然草の鑑賞」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
寺田寅彦は、中学と高校のころに、徒然草について教わったんですがほとんど覚えていなかった、ところが大人になってから改めて読んでみると、当時の記憶がみごとによみがえった、と記しています。おどろいたことに、自分の思想信条に、徒然草や……日本の古典からの影響が色濃いことを発見して、国語の影響力に思いいたった。徒然草は当時の学生たちに大きな影響を与えたのかもしれない。「自由な自然観が流露」している「心の自由、眼の自由によってのみ得られる」ような「俳諧」というのが、徒然草などの古典には色濃い。中途はんぱに風流がっていて滑稽なもの、風情を求めて思わぬ興ざめに出くわす悲喜劇、そういうものが日本の古典にはある。
徒然草には「仏教の無常観と結合している」ところがあって「全巻を通じて無常を説き遁世をすすめ生死の一大事を覚悟すべしと説いたものが」多く「遁世を勧めると同時に、また一方では俗人の処世の道を講釈しているのが面白い」世間でちゃんと生きるための処世術も書いてあれば、ひきこもって生きることの重要性も書いてある。
それで寺田寅彦は科学者の視点から見ると「嘘のサイコロジー」を論じたものなどが科学的思考の参考になると、指摘しています。マルクス主義について論じるにあたっても、徒然草の思想は役に立ちそうだ、と書いています。
現代人にとっても重大な、統計学から出たデータをどう理解すべきか、ということについても、徒然草では論じられている、と寺田は指摘します。専門家の意見が真逆になっていて、どう理解すれば良いのか分からないことは多いと思うんです。それについて徒然草では「この世は無常なので変化しつづける」から、識者の見解が真逆になることがよく起きるのだと、説いています。「物皆幻化」であってものごとはみんな実体もなく変化していって「留まることはない」んだよと、徒然草の吉田兼好は述べています。
第三十八段の名誉欲にかんする警告の箇所については、原文をちゃんと読んでみたいなあと思いました。「菜根譚」みたいな、処世術として役立つ記述も多いんだそうです。さらにギャンブルに関するおもしろい話しも徒然草には記されているそうです。
吉田兼好は、両面をちゃんと書くという方針があるそうで「ものの両面を認識して全体を把握し、しかもすべての人間現象を事実として肯定した上で、可と不可とに対する考えをきめようとしているらしく思われる」これは科学者も心得るべき態度であると、述べています。いろいろ知らなかったことが書いてあって、なんだかすごい随筆でした。
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