今日は、久米正雄の「父の死」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
作家の久米正雄が、自分の幼い頃の、父との思い出を書いています。序盤は架空の小説なのかなと思って読んだのですが、ほぼ実話の個人史を描いた作品らしいです。
平生の暮らしを書くところの文章表現が、どこか漱石の作品に似ているように思うんですけど、じっさいに久米正雄は漱石と深い関係にあったそうです。23歳のころに、漱石が『模倣と独立』という講演をしたのを聞いて、その数年後に漱石の門下生になって、漱石から手紙をもらったりしています。次回は『模倣と独立』を読んでみようと思います。この小説を発表した十カ月後に漱石は亡くなっています。漱石よりも文章が直接的なところが多いんです。それでかえって、当時の衛生の悪さや今では考えられない世相が目に見えてきて、近代の死生観や現代日本の起源が、なんだか垣間見えるような気がして、漱石を読む上でも、なんだか当時の社会を知る立体的な資料としての価値がある、ように思えました。wikipediaを見ると、久米正雄は通俗小説を書いた作家だそうです。幼い頃に家でこういうことがあって、そのご長命で無事に生きたというのはすごいな……と思いました。
本文とまったく関係が無いんですけど、同時代の哲学者ウィトゲンシュタインの家族にも不幸があったわけで、ぼくはウィトゲンシュタインの生き方にものすごく興味があるんですけれども、当時の日本では、個人主義よりも身内を結びつけるところに大きな意義を見出していたのだろうと思いました。
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