こころ 夏目漱石(下巻)

 今日は、夏目漱石の「こころ」下巻を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  「こころ」は今回で完結です。
 漱石と言えば「坊っちゃん」や「草枕」のように、親族と無縁なところをみごとに描ききる、血縁から自由なところにその創作の魅力があるとぼくは思うんですが、こんかいは家で生じる不和が大きな題材になっています。
 ぼくはこの小説をあまり真面目に読めなかったんですけれども、先生はどういう人生を歩んできたのかというので、親族との関係が妙なことになった、新しい家族を形成する時に、通常の展開と異なっていた、というのが気になりました。
 両親の亡くなった実家をどう引き継ぐかというので、叔父は「従妹と結婚」をして家も引き継いでくれというように頼んでくる。これを先生はすっかり断って、従姉妹は泣いてしまった。ここから話しがおかしくなってゆく。遺産もどうも持ってゆかれた。
 地縁を捨てて東京で新しく生きようという先生が、しかしながら東京でも家族をもうけようというときに、重大な問題が起きてしまった。未読の方は本文だけを読んでもらいたいんですが……現代の芸能界風に言うとようするに、結婚式の1日前に致命的な不倫をしてしまった、というような話しで、不倫を行う男の心理が、この本を読んでいるとなんだか理解できてくるように思います。漱石はもっと上品ですから、不倫の気配はいっさい出てこないんですけど、恋愛や結婚を巡っての裏切りが中心に描かれます。
 ちょっとこうどうもぼくには分からないのは、先生はとくに不義理をしていないと、自分には思えるんです。先生は妻を不幸にするのが目に見えているのに、自分で自分の罪を告白して不必要に自責しているわけで、鈍い自分にはそれがどうも理解できない。Kにたいする批評に見せかけた人格攻撃というのが生じていてそこはやはり不味いようには思うんですが。
 ぼくが思ったのは、この小説では、住空間の不可思議が描かれているというように感じました。旧友Kとお嬢さんと私(先生)の3人は、3人とも無関係な家の他人同士なんですが、ふすま一枚へだてた住空間に生きていた。空間が妙なんです。父が消えた実家の空間も奇妙なことになっていた。
 むかし読んだときは、Kというのが漱石の友人なんじゃないかと思ったんですけど、Kの性格は漱石が悩んでいる時期に似ているように思いました。
 Kが最初に現れるのは下巻19の、全体の65%あたりのところからで、合計411回も記載されています。
 再読をしてみて思ったのは、私(先生)が旧家で受けた所行と、Kに対して行った不味い所行には、まあまあ共通項があって、彼の将来を慮ってやったことが、のちのちの歪な事件の原因になっているんです。ほんとに浅い読み方になってしまったんですけれども、収支をちゃんと明解にするとか、住空間を整えてプライバシーに配慮するというのは、大事なことなんだなあと思いました。
 この作品の終盤を読んでいると、漱石が短い期間にとてつもない長編の数々を記していった、その事実と迫力を感じます。
 「こころ」では現代にも起きている、日本の暗い側面が記されているように思います。「私は妻に残酷な驚怖を与える事を好みません」と記しているところに大きな矛盾があって、どうもぼくはこの小説はよく分からなかったです。この漱石の「こころ」にかんしては、坂口安吾が批判を行っていて、これがもっとも参考になると思うんです。「こころ」について考えてみたい、という方は、ぜひ安吾の文学論に於ける漱石批判を読んでみてください。
 

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