細雪(18) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その18を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 次のフィアンセ候補である野村巳之吉の経歴がまとめられた厚紙が、妹・雪子の縁談をとりもっている姉・幸子のところに届けられました。こんどは結婚できそうな相手なんですが、ただ雪子が幸福になれそうな気配が感じられないんです。写真を見ても年寄りすぎて新郎という感じがせず、年齢差がありすぎるんです。
 この野村氏は家族が亡くなられていて新しい結婚相手を探しているんです。
 これはもうなんというか、戦時中の厳しい情勢の結果、雪子にも良い相手が見つかりにくくなっている、というのが明らかなんです。もし戦争や不景気が無かったとしたら、雪子はとっくの昔に幸福な結婚をしているはずの、豊かな環境に居るんです。
 作中ではまだぎりぎり戦争被害は近くに生じていませんが、作者は戦争被害をみている状態です。本文では父の不在は戦争の影響ではまったく無いことになっているんですが、戦争で家長が不在になったという当時の時世が明らかに反映されているように思いました。
 雪子は真面目ですから、すごい年齢差があるおじいちゃん顔のおっさんであっても、写真を見ただけでは断らないんです。縁談相手がいたほうが良いと思っています。ただなんども破談になるのだけは避けたいというように考えています。雪子はこう述べています。
「縁談の話やったら、云うてほしいねんわ。あたしかて、そんな話がまるきりないのんより、何か彼かか云うてもろてる方が、張合があるような気イするよってに。」
 幸子の娘である悦子は、近所のドイツ人ローゼマリーといっしょに人形でおままごと遊びをしているのでした。次回に続きます。
  

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谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)