今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その28を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
今回の見合いは、最初から不成立の展開になるはずということを、幸子も雪子も認識しつつ、家族の交流を深めるにはこれを中断できないので、奇妙なお見合いがとりおこなわれるんです。新郎の候補というよりも、もう老翁という人が現れるんです。雪子と並ぶと夫婦というよりも父子みたいに見えてしまう。これはもうお互いに無理な展開だとなんとなく分かっている。お互いに不幸を押しつけあいたいというような両家族なのではなく、どちらも良い未来というのを作ってゆきたい、どちらの家族が悪いのかも分からない。
この細雪は、女性だけが主人公の物語だと思うんですが、今回は、大人の対応をしつづけようと苦慮する貞之助が印象にのこりました。幸子は流産したばかりで、青い顔をしてしまっています。
この小説は1945年ごろに1941年のことを描いた作品で、若い男が徴兵によって都市から消えてしまったころの作品なんです。それで新郎候補が、新郎のように見えない、という描写に、当時の日本が見ていた世界が映し出されているように思いました。戦時中に文化的な暮らしをすることの難しさが、目に見えて描かれているんだと思いました。
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(総ページ数/約20頁 ロード時間/約3秒)
「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。
■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)
追記 これはもう失敗だと分かっているものごとにたいして丁寧に対応しつづける幸子夫婦の物語を読んでいて、現代の成功している人たちもたぶん、幸子夫婦のように不味い場面を何度も通りぬけて成功に至っているんだろうと思いました。架空の小説を読んでいるだけでも心苦しいのに、実際にこういう場面が現れたら、ぼくだったらまあ確実に欠席すると思いました。
それから、作中でナチスに関する短い記述があって今回はとくに肯定も否定も無い記載なんですが、谷崎は戦後社会というのを見据えて言葉を書いているのでは、と思いました。