細雪(4) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その4を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 第一話にも登場した、雪子の婚約相手を探したがっている井谷(美容院の女主人)が、ちょっと雪子とお見合いてまえの食事会をしたいのだと言って来ます。雪子のフィアンセ候補は、フランス文化にもちょっと精通している瀬越という男なんです。
 この小説は、優雅な文化を描いているところがあると思うんですが、どこかで行き詰まったような苦しいような描写があって、印象的なんです。この本の執筆は、第二次大戦が苛烈になるころに記されたものなんです。1943年から1944年と戦後すぐに、執筆されていったものです。とくに今読んでいる上巻は、陸軍(および内務省)から発禁処分を受けて発表できなくなったあとに、1944年の初夏に書きあげている作品で、戦争中なんです。谷崎潤一郎は、戦争のあとのことを考えて書いているんだと思うんですけど、じっさいには「華氏451度」みたいに原稿が燃えて消える可能性もあったと、思います。20世紀初頭に与謝野晶子の源氏物語の原稿は地震で焼失しているんです。谷崎潤一郎も与謝野晶子みたいに1941年ごろ源氏物語を翻訳しているわけで、そのちょっとあとの1944年に「原稿が消失するかもしれない」というのは感じていたことだと思うんです。この「細雪」上巻を書きあげて私家版を出したのが1944年7月で、そのちょっと前の1944年6月に日本への空襲が来ています。八幡空襲というのです。そこからはもう大空襲が目の前で、そのころ中巻下巻を書いてゆく、当時は空襲中と焼け跡の世の中だと思うんですけど、この物語の序盤にはそういう気配は無いんです。家族の地味な幸福と展望について、三女の雪子がどういうように結婚するのか、を追っていった小説になっています。この時期に、結婚相手はみんな、赤紙で狩り出されて、帰ってくる可能性がすごく低くなってしまっている時代に、戦争のことは抜きにして、どうやって結婚しようか、どうやって家を新しくしてゆくのか、というのを静かに描きだしていて、すごい作品だなと思います。
 農業や工業の発展もあって、運良く幸福に生きられる人は数百年前よりも明らかに多くなっている。けれども当時の多くの女性は、いつ伴侶が戦争で死ぬか分からないという状況でした。雪子は妹の妙子に恋人ができたのを知り、それが順調に進展して幸福になるのを願っているんです……。谷崎が敬愛する漱石も「三四郎」で描いていた、聖書のストレイシープに関連したようなことも今回記されていました。雪子の気持ちは、1944年に取り残されつつあった若い女性の気持ちでもある、と思って読みすすめました。
  

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)