野分(3) 夏目漱石

 今日は、夏目漱石の「野分」その(3)を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 第一話で白井という文学者が登場して、第二話で中野君という秀才作家があわわれた。今回の第三話で、白井先生が中野君の家を訪れるところから物語が始まります。
 中野君は白井先生について奇妙な噂を聞いていて、このことを気にしている。「あなたが、あの中学校で生徒からいじめられた白井さんですかと聞きただしたくてならない」んです。ところがどうも人違いの可能性が高いようである。白井先生は文芸誌の編纂をやっていて、若い物書きの中野君にちょっとした談義をしてもらって、それを文芸誌に載せるために来た。「なにか現代の問題について論じてくれ」というわけです。中野君はとうぜん協力して、言いたかったことを言ってみる。それは近代に於ける恋愛論で、これは若者にとっていちばん重大なことになっている、という話しをする。白井先生はその話をしっかり手帳に記録して、これを文芸誌に載せるというわけです。それで中野君は、かなり熱く「深刻な煩悶」としての恋愛論を語ってみて、白井先生がこの論議についてどう思ったのかを知りたいわけです。「いじめられていた人なのか」イエスなのかノーなのか、「恋愛論についてどう思うのか」イエスなのかノーなのか、と中野君は気になるわけです。
 それで「野分」のカメラワークでは、こんどは白井先生の日常のほうを追いかけてゆくわけですから、中野君がイエスなのかノーなのか気になっている、そこの真相が見えてくるはずなんです。ところがイエスでもノーでもない、どちらでもないような様相が見えてくる。
 白井先生は細君と貧しい生活をしつつ文芸誌の編纂を続けているわけで、恋愛論について熱く論じるような状態じゃ無い。かといって中野君の議論を否定しているわけでも無い。世界を二分して考えても、どうもその二分のどちら側にもちっとも入らない領域というのがあるようで、漱石の物語を読んでいると、あ、こういう人と人との差異があるのかと思って、なんだかおもしろく感じました。
 

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