学問のすすめ(16)福沢諭吉

 今日は、福沢諭吉の「学問のすすめ」その16を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は、独立するということについて論じていました。物質上の独立と、精神上の独立の2つがある、とまず記しています。欲望によってじぶんの本心に背く事態に至ってしまうことを「精神上の独立」の失敗として考えているのが、福沢諭吉の独特な論法に思いました。
 過度に酒を飲んで心身に損失を出してしまうことも、物質から支配を受けてしまったということである、というように書いています。大金持ちだから独立しているわけでも無いということが分かって、言われてみればたしかに、資産が小規模でも気持ちが良い暮らしをしている人は居るなあと思いました。お金が足りなければ独立がむずかしいけれども、お金を上手く使う、ということも大事にしなければ、物質の奴隷になってしまうという警告を記していました。支配を受けない、奴隷のような状態にならない、ということを学んで実践してゆくための、ヒントをいろいろ書いている章でした。
 「煙のごとき夢中の妄想に」引きずられて心の独立を損なわないように、ということを福沢諭吉が記している箇所があって、安寧をはばむものについて学んでこれを避ける、といったことも本章で取り扱っていました。金の力を用いることによって、かえって自他の精神の独立が害されることがある、と、お金の取扱を工夫することの重要性を説いていました。
 それから「議論と実践」の2つを論じています。
 「議論と実業」の2つのうちのどちらが欠けても、批判すべき状態になってしまう。
 すぐれた人間は大きな仕事や重い仕事をするけれども、それは自分がやるべき仕事を「弁別」しつづけて「軽小を捨てて重大に従う」という長きにわたる「志」があったからである、と福沢諭吉は書いています。
「心事高尚ならざれば働きもまた高尚なるを得ざるなり」と、こころざしが優れていなければ、仕事も優れたものにはならない、ということを書いていました。
 また猛練習に励んでギャンブルの裏技を極めたとしても、それは大きな仕事を成し遂げたとはちょっと言えない。本文にはこう書いています。
「有用無用を明察して有用の方につかしむるものは、すなわち心事の明らかなる人物なり。ゆえにいわく、心事明らかならざれば人の働きをしていたずらに労して功」がほとんど無い。
 大きな仕事というと、現代のインターネット業界で言えばwikipediaの創業と運営を成功させた中心人物とかなんだろうなあと思いました。wikipediaは、勘違いや妄想を減らす効果があるように思います……。
 あと、福沢諭吉は処世術のようなことも書いていて、遊びの現場で道徳的な説教を垂れるのはなんだか異常で、時と場所を選びなさい、ということを書いていました。
「人の働きのみ活発にして明智なきは、蒸気に機関なきがごとく」と書いていて全体の規則をうまく作って、害を減らすことの重要性も記していました。
 ここから、青年の職業論も説いているんですが、これは福沢諭吉こそが慶應義塾という新しい教育現場を作った人なので、ずいぶんリアルな描写になっているように思いました。志が高いと、就きたい職業も狭まってしまって、ステップアップが難しくなる。
 軽小を捨てて重大な仕事を志すのは美事であるけれども、そこで人間性を失ってしまうとまずい。福沢諭吉は、職業弁別は重要だけれども職業差別はまずい、というように説いているのかと思います。「みだりに人を軽蔑する者は、必ずまた人の軽蔑を」受けてしまう、というように警句を記していました。
「他人の働きにくちばしれんと欲せば、試みに」自分で実際にやってみよう、というように実践的に試してみることをすすめていました。
 次回で「学問のすすめ」は完結です。
   

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