原爆回想 原民喜

 今日は、原民喜の「原爆回想」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは原爆の直撃を受けて、辛くも生き残った原民喜の随筆です。まだ平和に暮らしていたころの父や妻のやっていたことを、生き生きと描くところに、家族への思いがにじむように思いました。当日の被爆地でなにをどう調理して食べることが出来たのかを記していて、当時の営みが描かれていました。本文こうです。
quomark03 - 原爆回想 原民喜
  私たちはその日の夕刻頃には、みんなもう精魂つきて、へとへとになっていた。私はオートミイルの缶をあけて、それを妹に焚かせて、みんなに一杯ずつ配らせた。すると次兄は、「ああ、こんなにおいしいものが世の中にあるのか」と長嘆息した。このミルクと砂糖の混っているオートミイルの缶は、用意のいい亡妻がずっと以前に買って非常用にとっておいた秘蔵の品である。この宝が衰えきった六人の人間を一とき慰めてくれたのである。quomark end - 原爆回想 原民喜
 

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「廃墟から」を全文読む。
 
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放心教授 森於菟

 今日は、森於菟の「放心教授」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この「放心教授」では風刺絵のように、偉い教授をなんだか無意味にこき下ろす小説なのかと思って読んでいたら、そうではなくて自分で自分をこき下ろすという奇妙な語りの、作品でした。世間にうとくて、つねに放心しっぱなしの教授が、ドイツで学問をしたり観光をしたりした、というのが描かれます。昔はいまと違って、ヨーロッパでは歩いているだけでなんだか蔑視されたり冷笑されてしまう、という体験を記したり、道中でやっていたオシャレとかについていろいろ書いていました。
 東京の電車のなかで見知らぬ娘たちに笑われた、その理由は、服を裏表に着てしまっていた……。これは落語の笑いを小説にしたような作品かと思ったんですが、どうも実話として書かれたようです。ちょっと漱石の『坊っちゃん』に似ている、奇妙に魅惑的な随筆でした。
 

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ゲーテ詩集(50)

 今日は「ゲーテ詩集」その50を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 ゲーテは自然界と人の心情が入り混じるような詩を、なんだかよく描くように思いました。
   

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追記  「流れよ、流れよ、いとしの河よ!」というゲーテの詩の言葉が印象に残りました。そういえば古代近代の日本でも、川の神とか海の神というのが、神格化されたり擬人化されたりするのは、自然界との共生の心情が生み出したものなのでは、と思いました。
 

霊感! 夢野久作

 今日は、夢野久作の「霊感!」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
  老医オルデスオル・パーポンという奇妙な医者のところに急患がやって来ます。「サタンの死に顔か、メデュサの首かと思われる」恐ろしい顔つきをした患者なんですが、よく見るとアゴが外れた男なのでした。パーポンは上手いことこれを治してやりました。本文こうです。
quomark03 - 霊感! 夢野久作
 見ると最前の恐ろしい形相はあとかたもなくなっているばかりでなく、いかにも人なつっこそうな二十二三の美青年で、相当の教養を持っている事が一眼でわかる眼鼻立ちであったが、タッタ今老ドクトルに罵倒された驚きが未だ消えぬかして、如何にも不思議そうに眼をみはったまま口をモゴモゴさせているのであった。その顔を見下しながら老ドクトルは大得意の体で椅子の上に反そり返った。
「ハハハハ。イヤ。顎の外れたのは生命に別条はありませんが案外苦しいものでね。おまけに一度外れると又外れ易いものですから、これから余程気をお付けにならんと、いけませんよ。たとえば大きな欠伸をするとか、クシャミをするとかいう時には御注意をなさらんといけません。quomark end - 霊感! 夢野久作
 
ところが、なぜ「立派な礼服を着」た「美青年」のアゴが外れたのか、理由を聞いてみると……
 

0000 - 霊感! 夢野久作

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追記  青年はなぜ裁判中にアゴが外れてしまったのか、本文にはこう書いています。「実は私が顎を外した原因というのはアンマリ呆れたからです」「エエッ……呆れて……顎を外したと仰言るのですか」アゴが外れてしまうほどあきれてしまう事件とはいったい何だったのかというと、こうです。
 「天涯の孤児」である双子の「私達」はレミヤ嬢という美少女に恋をしていたんです。
 いろいろあって美少女レミア嬢と、双子のどちらかが結婚をすることになったんです。
 いちおう計画を立てて、3人でひとつの結婚をすることにした……。子どもが生まれたときに、どちらが父親かを科学的に計算して判定して、片方が去るという予定だったんです。ところが子どもが生まれたのは、どちらの双子もレミアと一緒にいない時期だった。最後は裁判や霊感に頼って、オチのほうではこの話を聞いていた医者までもがあきれかえって、アゴが外れてしまった。真相としてはどうも、かなり無関係な男性との赤子だったようです。

グーセフ チェーホフ

 今日は、チェーホフの「グーセフ」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 坂口安吾も愛読した、アントン・チェーホフの本を読んでみました。400人もの船員がのりこんだ、とても大きな船の様子が描きだされます。船には、どうも妙な男たちがいるんです。船のなかのようすが、大陸全体を暗喩しているかのような、不思議な描写もあるんです。男たちが故郷を回想する場面がみごとなんです。ぼくはアントン・チェーホフの「妻」の難民支援を描きだした小説が、驚くべき傑作だと思うんですが、氏の描きだす郷土愛に、とくべつな魅力があるように思います。
 屈強な男たちが船上で賭けカルタをしている。さっきまで盛んに話していた男が、とつぜん動かなくなる。グーセフも、海の熱波にやられてもうほとんどものを食うこともできないでいる。終盤の弔いの物語と情景描写が圧巻でした。
  

0000 - グーセフ チェーホフ

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 グーセフやその仲間たちも船から見たであろう情景を描きだす、最後の一文がみごとな文学作品でした。本文こうです。 
quomark03 - グーセフ チェーホフ
  そのとき天の方では、日の沈む側に雲がむらがっていた。その一つは凱旋門に似ていて、次のはライオンに、三番目のは鋏に似ている。……雲の後ろから、幅のひろい緑色の光が射して、空のなかばまでとどいている。暫くすると、この光に紫色の光が来て並ぶ。その隣には金色のが、それから薔薇色のが。……空はやがて柔かな紫丁香花色ライラックになる。この魅するばかりの華麗な空を見て、はじめ大洋はしかめ面をする。が間もなく海面も、優しい、悦ばしい、情熱的な——とても人間の言葉では名指すことも出来ぬ色合になる。quomark end - グーセフ チェーホフ
 

細雪(29) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その29を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この物語の主人公は、谷崎作品の中でもとくべつに上品だと思っていたんですが、雪子には欲望がほとんど無いというか、事件性のあるような愛欲の気配がまったくしないんです。虚無的とかニヒルというのともまったくちがっていて、雪子は人から求められればしっかり応じて行動し、発言しているところがあるように思います。
 戦時中に小説を書くのは発禁や禁固刑になる可能性が高いわけで危ないことで、そうなるとおそらく、いちばん重要な問題と人間性が描写されてゆくはずだと思うんです。
 雪子は控えめだというように思っていたんですが、雪子は他人に依存しようという感覚がほとんどなくて他人に求めるところが少なく、心的に独立しおえているのでは、というように思いました。
 いっぽうで新郎候補のはずだった野村氏は、事情がいろいろあるんですけど、とにかく性急に雪子を自分の世界に引っ張り込もうとやっきになっていて、これはまずいなというように思えました……。けっきょく縁談は打ち切りで終わりました。
 ひとつ困ったことが起きると、それが起因となってさらに困ることが増えてしまう、というような気まずい展開のように思いました。これは野村一家や蒔岡4姉妹だけに限らず、この1941年からの5年間の日本でおもだって起きたことのように思いました。
 これでいったん第一巻(上巻)が終わりまして、すぐに第二巻(中巻)がはじまります。いったん谷崎作品の更新を休止しますが、1年後か半年後に引きつづき、『細雪』を読みすすめてゆこうと思います。
  

0000 - 細雪(29) 谷崎潤一郎

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)