神サマを生んだ人々 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「神サマを生んだ人々」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは戦後になって信教の自由が生じ、謎めいているんだけれども他人に害はもたらさない、奇妙な集団が現れた。最近で言うとパナウェーブとか、そういうのだと思います。戦後すぐの新宗教を描いた物語で、なかなか迫力があって恐ろしい、面白味のある小説でした……。いろいろ信じがたいものごとに関わっているのだけれども、したたかに生き残ろうとする男女の姿が描きだされています。最後の一文で妙なことを告げていて、呆気にとられました。
  

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ゲーテ詩集(15)

 今日は「ゲーテ詩集」その15を配信します。縦書き表示で読めますよ。
 ゲーテのすぐそばに恋人がいて、若いゲーテが詩を書いている……という風景が思い浮かべられるような、少女の心象を描きだした詩でした。ゲーテの目を通して恋人を見ると、このように見えるんだろうと、思いました。ほかにも「煩悶者」という孤独な詩がすてきでした……。
  

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旅の仲間 アンデルセン

 今日は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの「旅の仲間」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ヨハンネスは父を亡くし天涯孤独になってしまうのですが、新たに生きるため旅をはじめる、という童話でした。父親からもらったお金は、貧しい人にあげてしまう。以下の箇所が印象に残りました。本文こうです。
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  お墓には、きれいに砂がもってあって、そのうえ、花まで飾ってあるではありませんか。これは、よその人たちが、しておいてくれたのです。というのは、死んだおとうさんは、みんなにたいそう好かれていたからでした。quomark end - 旅の仲間 アンデルセン
 
 良いことをした人のゆく天国、というはなしが序盤に描きだされてゆきます。これは……幸福に生きつづけて晩期を迎え、その良い生き方の印象と影響は、死後であってもはっきりと残りつづける、ということでもあるんだなあと、思いながら読みました。物語には、なんだが偶然のように「旅の仲間」とめぐりあって2人で旅をして、不思議なお姫さまと、死んでいったフィアンセ候補たちが記されてゆきます。お姫さまが今どんなことを考えているかを、3回も言いあてなければ、魔女の命令で倒されてしまう、というルールなんです。お姫さまは悪い魔女に洗脳されているんです。心やさしいヨハンネスは、お姫さまの美しさを信じようとします。けれども背後には死を司る魔女がいます。本文とは無関係なんですが、かの極北の帝王の娘が小さな幸福をつかむには、アンデルセンのこの物語のような危険な賭けを経て、人間的になるしかないのだろうと、思いました。ただの脇役のように見えた「旅の仲間」という男が、秘密裡に、さかんに活躍します。
 いやー、これはすさまじい、とうなるような幻想小説の描写もあります。最後の最後に、ある人物の正体が記されます。みごとに劇的な童話でした。
 

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亡び行く国土 中谷宇吉郎

 今日は、中谷宇吉郎の「亡び行く国土」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 科学者の中谷宇吉郎が、戦後の日本の文化と文明を見渡して、日本の重大な公害が生じる数十年前に、自然界と工業の組み合わせの危険性を考察している作品です。おもに水害と電力問題を論じています。日本の四大公害病、という言葉がまだ生じてくる前に、治水と科学に関する問題を中心にして、自然界を無視して人類が行動し始めていることを憂慮しています。原発は津波や地震や老朽化を無視して建てられないわけで、その科学的考察が権益によってないがしろにされたのがまずかった。中谷宇吉郎のように科学的考察を重んじる人が権力を有していたら、原発が50数基あって核の公害で年間20ミリシーベルトを越える汚染が生じて立ち入り禁止区域ができてしまう日本というのとは、ちがう未来というのが生じただろうと思いました。本文こうです。
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 世の中に、金さえあれば出来るというものは滅多にない。金がなければもちろん出来ないが、そうかといって、金だけあっても出来ないというものの方が大部分である。対人間の問題は、たいてい金だけで片づくであろうが、自然を直接相手にした場合には、金だけで解決される問題というものは非常に少ない。このことはよく頭に入れておく必要がある。quomark end - 亡び行く国土 中谷宇吉郎
 
 科学で自然界の力を読み説いたり、科学で未来の公害を予測して政治に活かすことはちゃんとやらなかった。こういう失敗は現代でもあり得るんだろうなあと思いながら、中谷宇吉郎の熟考された治水論を読んでみました。
 

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答えがある状態で読んでいる読者のぼくと、未来の災害という答えのない問いを問うている中谷宇吉郎とで、ずいぶん思慮深さに差があるなあとか、思いました……。

死せる魂 ゴーゴリ(5)

 今日は、ニコライ・ゴーゴリの「死せる魂」第5章を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 前回、ギャンブル狂のノズドゥリョフにだまされてリンチされそうになったところ、ぎりぎりで逃亡できた主人公チチコフは、次の村へと馬を走らせています。馬車には従者もいます。
 日本人とロシア人の特徴的な違いのわかる描写があったんです。道で激しくぶつかってしまった、そのときに……「ロシア人の癖でこちらが悪かったと他人の前へ頭をさげることが出来ず」虚勢をはるんだそうです。日本人はとにかく「ごめんください」から「すみません」からお辞儀から謝罪会見に土下座と、謝罪がとにかく好きだというのがあると思うんです。ロシアでは強気に出て、問題がこんがらがりがちのようです。
 ぶつかって転がってしまった二つの馬車なんですが、御者二人は口論になる。向こう側には若い娘が乗っていました。本文こうです。
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 吃驚びっくりして軽く開けたままぼんやりしている口つきといい、涙ぐんだ眼もとといい——何もかもがまたなく可愛らしく見えたので、我等の主人公は、馬や馭者たちの間に起こった悶著もんちゃくなどはすっかり他所よそにして、しばらくはうっとりと娘に見惚れていた。quomark end - 死せる魂 ゴーゴリ(5)
 
 今回、なぜゴーゴリが、この農村の牧歌的なところのある物語をダンテ神曲地獄篇に匹敵する、悪行と苦果の書として記そうとしたのか、その謎のヒントが記されていると思いました。
チチコフは、幻のように去っていった無垢な少女に見とれ……その少女が成長してゆく姿を空想するんです。本文こうです。
quomark03 - 死せる魂 ゴーゴリ(5)
 いつの間にか威張ったり気取ったりすることを覚えこみ、聴き覚えの教訓にしたがって身を振舞い、誰とどんな話を、どの位したらよいかとか、誰をどんな風に見たらいいかというようなことばかりに工風くふうを凝らして頭を悩ましたり、自分が少しでも余計なことをしゃべりはしないかと、しょっちゅう、そんなことが心配になるのだ。そして挙句の果にはすっかり自分でこんぐらがってしまい、とどのつまりは一生涯嘘をついてまわるばかりの、何ともはや得体の知れぬ代物になってしまうのだ!quomark end - 死せる魂 ゴーゴリ(5)
 
 ゴーゴリは、ウソというのが可愛らしいものだったり方便だったり、そういうように考えていないようで、ウソが最大の悪徳だと考えているようなんです。そういえばダンテ神曲地獄篇でも、下層に行くほど罪深い罪人が現れていって第七圏の暴力者の地獄などが恐ろしく描かれていたんですが、さらに最下層の第八圏や第九圏ではなぜか詐欺師や裏切り者という、ウソを悪用する人間がもっとも罪深く描かれているわけで、ゴーゴリはその詐欺師と裏切りについて、描こうとしているんだなと思いました。
 ウクライナの近現代史でも、権力者のウソというのが人々に致命的な害をもたらしていったわけで、文学でいうと『1984』でも大規模な権力がとんでもないウソを作り出すところを描きだしています。
 少女や従者や詩人のウソというのはなんだか面白いものだと思うんですが、権力者のウソというのは致命的な害をもたらしかねない。
 ゴーゴリは死せる魂を買い取るという詐欺を行いつづけるチチコフを通して、権力とウソのおそろしさを描こうとしているのか……と思いました。ロシアでは都合の悪いことがあると、悪事を強引に正義にすり替えようとする。日本の場合は謝罪の過程で大きいウソが入り混じる、という特徴があるのでは、と思いました。
 いよいよ詐欺師チチコフは、大地主のソバケーヴィッチのところへ辿りつきます。ソバケーヴィッチは売れるはずの無い鬼籍の魂を、幾らで買うのか、幾らで買うのかと、議論を繰り返し、金はどれだけ出せるのかという話しをえんえんやるのでした。ようやっと買い取れてから、チチコフは流行病で亡くなった村人の住み家へと、身をひそめながらゆくのでした。ハエのたかるおぞましい世界で、こんなひどいハイエナのようなことをしてまで、個人的幸福をつかまなければならないのかと……衝撃を受けつつ読みすすめました。次回に続きます。
 

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ゴーゴリの「死せる魂」第一章から第十一章まで全部読む
 
ゴーゴリの「外套」を読む

牛女 小川未明

 今日は、小川未明の「牛女」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 山と母が、印象的に描きだされる、美しい童話でした。
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 子供こどもは、母親ははおやこいしくなると、むらはずれにって、かなたのやまました。すると、天気てんきのいいれたには、いつでも母親ははおやくろ姿すがたをありありとることができたのです。ちょうど母親ははおやは、だまって、じっとこちらをつめて、うえ見守みまもっているようにおもわれたのでありました。quomark end - 牛女 小川未明
 

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 菅原道真を祀る、ということでもそうだと思うのですが、日本では、よき人であるのに不憫な事態に陥ってしまったことについて、空想を交えながらくりかえし丁寧に描くことがあるんだと思いました。