今日は、小川未明の「公園の花と毒蛾」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
これは山の高いところに住んでいる「とこなつの花」が、野原の中でいろんな生きものと対話をする物語です。
小川未明は、冷気をふくむ霧に凍える花の心情を「毒のある針でちくちく刺されるような痛み」というように描いています。
花は寒さのためにもう枯れてしまいそうになっていて、高原から出てゆきたいと考えるようになり、仲良くなった小鳥に頼んで、にぎやかな世界へと連れて行ってほしいと頼むのでした。
「どうか、わたしをにぎやかな町の方へ連れていってください。わたしはただ一目なりと明るい、にぎやかな世界を」見たいのだと言うのでした。
小鳥はこの願い出をいったん断るのですが、花からぜひにと言われてこれに従います。それから美しい町の公園まで運んでもらいます。新しい土地にやっと根づくことの出来た花は、奇妙な男に出会います。

装画をクリックするか、ここから全文を読む。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約5秒)
追記 「みすぼらしい男」がやってきて、黒い百合の花を探しながら、ある過去について回想をはじめます。この町では「なんでも欲しいものは、この町に、ないものがなかった」というほど、にぎやかな都会で、ここにサーカスがあって女の軽業師たちがおもしろい技を披露するのでした。その中で、重量挙げ選手のように重いものを積み重ねるという芸をやっていた女性が居て、男はこの人が好きになったのでした。ところがある時に男は、この軽業師が不幸にも身罷ったと聞くのでした。男はこれを悲しみ、あの軽業師の女のことと、そのサーカスの興行があった時期に咲いていた黒い百合の2つのことを思います。軽業師と黒い百合の2つのことをいつも同時に思いだします。
「黒い花は、人間の死骸から、生えた」もので「毒がある」とみんな言うのでした。「みすぼらしい男」は軽業師の生まれ変わりのような黒百合を探しています。
それから仲良くなったミツバチと別れた「とこなつの花」のところへ、黄色い毒蛾が現れるのでした。
あまたの人々の死骸の中から生まれたこの毒蛾は、奇妙なことを語ります。「どんなににぎやかな明るい街の火でも暗くすることができます」と毒蛾は告げます。火の中にあまたの蛾が飛びこむことで火を打ち消すのだと、謎めいたことを言うのでした。このあと「都会の火を消すために、蛾が襲ってきた」という、悪夢のような事態が描きだされるのでした。「みすぼらしい男」はこの黒百合と毒蛾の2つに囚われてこれに近づき毒を受け、大病を患ってしまった。
主人公であった「花」のところにも学者がやってきて研究のためにと、むしり取って行ってしまった……。にぎやかな町で繰り返し起きる悲しいことがらを、小川未明は丁寧な筆致で描きだすのでした。