予謀殺人 オースティン・フリーマン

 今日は、リチャード・オースティン・フリーマンの「予謀殺人」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは古典的な推理小説で、叙述トリックは存在しないんですが、理詰めで犯人を推論してゆくという物語でした。
 犯行の動機と場面描写が納得のゆく内容でした。こういう事件と捜査は、いろんなところで繰り返し起きてきたんだろうなあと思いました。物語の序盤……犯人のペンベリーは若いころから犯罪者で、いちど犯罪を辞めて商売で大成功して里帰りするんです。この男のもとに軽率な脅迫者がやってきて……。つづきは本文をご覧ください。
  

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追記 ここからはネタバレなので、未読のかたは本文を先に読んでみてください。犯行現場と遺体の目撃者と、隠れ蓑に使った木と、犯人の匂いをしらべる警察犬の場面の描写に迫力がありました。濡れ衣で捕まった警察官エリスの冤罪をはらすんですけど、推理の中心には、細工された二本のナイフと、匂いと捜査を攪乱する動物の血や「じゃこうの香水」というのが、ありました。犯人の奸計がすみずみまで暴かれるのが印象に残りました。現実にはもっと泥くさい聞き込み捜査でなんとか冤罪が晴れるのでは、とか思うんですが。最後の最後の、犯人のその後のありかたの描写が、なんともかっこいい小説でした。さいきんhuluで「刑事コロンボ」を見ていて、オチが分かりきっている話でもじゅうぶん楽しめることがあるんだなあとか、思いました。
 

電気鳩 海野十三

 今日は、海野十三の「電気鳩」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 近代のSF作家というと、ジュールヴェルヌと海野十三がいろんな作品を書いたと思うんですが、今回のは少年が主人公の小説で、おもいっきり戦争中の冒険譚なんです。日本語をしゃべる「わる者」の男たちがおおぜい押しよせてきて、主人公の少年はさかんに逃げ回って、スパイたちの秘密の活動の謎を解き明かすという……。海野十三の作品の中でもけっこう荒唐無稽で、行き当たりばったりの展開なんですけど、少女をなんとか助け出そうとする主人公の奮闘が、なんだかかっこいい、小中学生向けの物語でした。主人公の父は科学者で、秘密兵器を開発しています。日本軍が地底戦車を極秘に開発している、この実体を暴こうとして「わる者」たちが画策してるのでした。海野十三の少年向け作品に描かれる、少年とスパイと軍、という描写がなんだか迫力がありました。主人公の少年は、奪いとった電気鳩を調べてみて、自分の味方にしてしまうのでした。
 

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機械 横光利一

 今日は、横光利一の「機械」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは百年前にしては最新の機械がそろった工場で起きた、不審な事件についての物語なんです。軽部という男と「私」は、仕事場で仕事中に際限なく争いをつづけていて暴力的で、危険な状態なんです。「私」は「屋敷」という優秀な男の仕事場での不審な行動に、違和感を抱く。
 産業スパイとして仕事を不当に盗みに来たのではないかという疑いを三人で抱きあっている。科学者や工学者や労働者とは思えない、無駄な殴りあいの暴力が突発的に生じ続けるのが、ワケが分からない映画でもみている気分になりました。
 賢いはずの三人の労働者が、意味不明に殴りあいをする、という奇妙な話しなんですが、途中で「真鍮を腐蝕させるときの塩化鉄の塩素はそれが多量に続いて出れば出るほど神経を疲労させるばかりではなく人間の理性をさえ混乱させてしまうのだ。」という記載があって、労働中にシンナー中毒みたいな中毒症状が出て、アル中のように暴力的になることはあり得るのでは……と思いました。
   

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追記 ここからは完全にネタバレなんですが、三人で酒を飲んだあとに「屋敷が重クロム酸アンモニアの残った溶液を水と間違えて土瓶の口から飲んで死んで」しまったんです。軽部が屋敷を殺した可能性がある。酒にさんざん酔っていたので「私」が「屋敷」を殺した可能性もある。「私の頭もいつの間にか主人の頭のように早や塩化鉄に侵されてしまっているのではなかろうか」というのが恐ろしいです。麻薬か睡眠薬を不当に飲まされて、過失致死事件を引きおこしてしまった場合、いったい誰が本当の犯人なのか分からなくなってしまうのでは、と思いました。

擬体 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「擬体」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 戦争が終わったあとに、GHQが日本を支配している、国警本部が動いている、日本の公安が調査をしている、という状況で、元軍人の石村という男が現れます。社長の石村は青木という主人公に、ある活動に協力するように依頼する。
 本文には「上海にいた時、それは戦時中のことで、石村は特務機関の仕事をやっていた」と書いています。その上海時代に、青木はなんとなく、今西巻子と何度か行動を共にして居た。その今西巻子は、いまこの戦後に、GHQが禁じている日共組織側の立場でスパイ活動をやっている可能性があると、石村は告げるのでした。青木は今西巻子と関わりが深いので、ほんとに日共スパイなのかどうかを確かめることにした……。つづきは本文をご覧ください。作中にこういう記載があるんです。「ひとをやたらに疑ったり、ひとをやたらに信じたりするのが、間違いの元です。だから、何でもないことがスパイに見えたり、何でもないことがスパイのスパイに見えたり、大間違いの結果になります。ばかげてるじゃありませんか」本文では戦後の軍事や諜報についていろいろ論じられているんですが、防衛論についても極論だけは辞めたほうが良いのでは、とか思いました。
 

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追記  ここからはネタバレなんですが、今西巻子を調べてみると決めたすぐあとに、主人公の青木が自殺未遂をしてしまうんです。未遂であって傷は浅く死ななかったんですが、これが突然すぎてよく分からなかったんですが、たぶん、日共のスパイという疑いが生じていることで心的な負荷が強かったのか、あるいは社長の石村の仕事依頼の内容に納得がゆかなかったのかと思われます。
 青木は体が治って、すぐに会社を辞職しました。スパイ活動を依頼されたがこれを断って辞職しました。どうもけっきょくは、今西巻子は、スパイでもなんでもなかったのに疑われたようです。おわりの10行が謎めいていて、なんだか不思議な読後感でした。

泥濘 梶井基次郎

 今日は、梶井基次郎の「泥濘」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
quomark03 - 泥濘 梶井基次郎
 何をする気にもならない自分はよくぼんやり鏡や薔薇の描いてある陶器の水差しに見入っていた。心の休み場所——とは感じないまでも何か心の休まっている瞬間をそこに見出いだすことがあった。以前自分はよく野原などでこんな気持を経験したことがある。quomark end - 泥濘 梶井基次郎
 
この箇所が、コーネルの箱の美術を連想させるように思いました。石鹸の挿話が2回あるんです。これが絵画的というのか、奇妙な存在感を示していました。仕送りのお金をやっと手に入れて、町をゆく「自分」の心情と同時に、美しい情景が描写されてゆきます。ついうっかり間違って買ってしまった石鹸を見ていると、母の記憶と声が再生されます。月光と石鹸……。
 

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階段 海野十三

 今日は、海野十三の「階段」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは近代の探偵小説で、犯人を科学的に調査して、理詰めで探してゆくというお話しでした。これはなんだかネタバレなんですが……この本は探偵小説ですけど、とくにトリックは存在しないんです。足音の録音によって、足音の特徴を見分けて、犯人をみごと特定できた、というところが印象的でした。指紋を検出して犯人を見分けるように、足音を記録して犯人を見つけてしまった。これが書かれた50数年後には監視カメラや通信履歴で犯人を探すわけで、音の記録で犯人を探す、というのが先進的でした。音だけでも、いろんなことが見えてくる、というのが不思議な感じでした。

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