牛乳と馬 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「牛乳と馬」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 牛乳を買いに行く「私」が見た、奇妙な光景を描きだした近代小説です。橋の欄干で馬が飛び出してきて、これにおどろいて、牛乳瓶をひとつ割ってしまった。小野田という馬主は、牛乳を弁償するといって牧場へ駈けていった……。
 

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追記  小野田はなんでもかんでも、独断で行動してしまう。「私」の散歩道やお仕事も、小野田が勝手に馬で牛乳配達をはじめてしまって、奪われてしまった。小野田は軍人だったころの考え方が抜けないのか「私」や「お姉さま」にたいして無作法なのでした。馬の気配がするだけで、なんだか「お姉さま」はそわそわしてしまって、馬の足音の幻聴を聞くようになってしまう。けっきょく「私」も「お姉さま」も東京に帰ることになって、小野田とは無縁になっていった。軍馬のものたちと「ミルク種族」なるものたち。そういった集団から抜け出すことが難しい現状についての「私」と「お姉さま」の「憤り」について記した小説でした。

青玉の十字架 チェスタートン

 今日は、チェスタートンの「青玉の十字架」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 イギリス探偵小説の妙チェスタートンが描きだす、探偵ヴァランタンと、巨漢の大盗賊フランボーが相まみえる、不思議な奇譚を読んでみました。青玉というのは高価なサファイアの宝石の、ことです。
 

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追記 ここからはネタバレを含みますので、近日中に読み終える予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。これはブラウン神父が探偵小説にはじめて登場する、記念碑的な作品なんだそうです。途中までずっと、この小柄な神父のことは、作中でほとんど取り上げられていなかったのですが、あらゆる人間に変装する大盗賊フランボーの正体をみごとに暴いて、高価な「青い十字架」を盗賊の手から守り切った神父が、その手練の推理と、奇妙な行動の真相を終盤に語り尽くす、起承転結の転結がみごとな小説でした……。いま読むとちょっと古風すぎてあまり驚きを感じられないところもあるのですが、百年前の物語世界を楽しんで読めました。

鏡の中の月 宮本百合子

 今日は、宮本百合子の「鏡の中の月」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 二十七歳の学校教師である瀧子のところへ、山口仁一がやってきて「直接お会いして気持を分って頂く方がいいと思ったもんですから」と言いつつ、縁談についての直談判をしてくるところから物語が始まります……。
 

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(追記  この奇妙に急ぎ足な縁談について調べてみると、元の妻であった女が、山口仁一と再婚した女はすべからく狭谷町から追い出してやると言っているという噂もあり、独身の瀧子は、あまりにもこっけいで「ばからし」く思ってしまう。ほかにもどうも山口仁一は「召集されるかもしれない」から、そのまえに、子どもたちのめんどうを見てくれる女を慌ててさがしているはずだということも分かってしまう。「山口が有力者の端くれだもんだから本当に始末がわるい」と述べて、さらに「学校やめさせるような卑劣なことをやる」可能性さえある。
「あちこちで召集が下るようになってから、村役場で婚姻届の受付が殖えた」という事実もある。
 瀧子は山口に直接「嫌だ」という旨を伝えて「どうぞ、この話はお打切りになって下さい」ということで話はすべて立ち消えとなるんですが、男のほうではまだなんとか関係を作れないかと、無駄に話しつづけてしまう。
 これが瀧子にとっては「愚劣な告白」と感じられることが、どうも理解できない。
 けっきょく山口仁一は出征することになった。終盤では、瀧子は明確に山口仁一を避けて駅から離れるのですが……そこでほかの家族の父親が出征してゆくとき「真蒼な顔をして笑っていた」奥さんが居たのを思いだして、相思相愛の夫婦が戦争で離ればなれとなる事態に「鳥肌立つ気がした」瀧子なのでした。最後の一文では「そのような人々の切ない混りけない今の気持にのって山口のように生きようとしている男もあるのである。瀧子は深い心痛む思いにとらわれながら、二つ先の駅まで揺られて行った。」と記されている、暗い小説でした。)

虎狩 中島敦

 今日は、中島敦の「虎狩」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 日本では現代でも狩りが行われていますが、この小説は現実の虎狩りについて記した作品です。百年前の半島での、人々の暮らしぶりを記し、駐在所に現れた虎と、その町の子どもたちのことが描きだされます。幼子の「私」の他愛ないケンカや親交や少女との思い出のことが記されます。
 学校の軍事演習を行った露営地のテントで雹が降ってきたときに、上級生から因縁をつけられて泣き顔になってしまった友人の趙が、殴られそうになった場面が印象に残りました。この趙という友人は遠くへ引っ越してゆき「私」は東京で暮らすことになるのですが……。
 中学生のころ、趙と「私」は虎狩りを見にゆくことになった。趙の父と、幾人もの猟師たちについて行くかたちで、レミントン・アームズの銃を抱えて、野生の虎を撃ちにゆく。雪山に虎の足跡があって、松明を掲げて夜通しこれを追ってゆく。この前後の描写に、迫力がありました。
 

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 十数年後にこの趙と突然の再会をするのですが、そこで「煙草をくれ」といわれてこれを差し出すと、笑ってこの煙草を突き返し、妙に哲学的な問答が生じるのでした。彼は燐寸を失っていて煙草を手にしてたのに、思わず「煙草をくれ」と言い間違ってしまった。燐寸が欲しかったのに煙草が欲しいと、間違って思い込んでいた。なぜそうなったかを検討すると、言葉だけを使っていて実態をイメージしていなかったからだ……「言葉や文字の記憶は正確なかわりに、どうかすると、とんでもない別の物に化けていることがある」という考察が記されるのでした。
 煙草と燐寸を入れ違って記憶してしまったことと、趙という青年の「弱虫」な性格と「酷薄な豪族の血」と、この両面が瞬時に回想されるのでした。

 

花問答 岸田國士

 今日は、岸田國士の「花問答」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 理学士の奥村と、家によくやって来る軍人の東義一というこの2名と、民子との三角関係が展開し、酒盛りをしたり卓球で遊んだりという地味な描写から物語が始まります。どうも民子は奥村が好きであるようなのです。奥村と民子はなんだか雰囲気が良い。
 東義一は海外留学にでかける奥村に、民子との結婚の意思が無いことを確認してから、晴れて民子と東義一は結婚をするのでした。それから……

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 ここからは後半の展開を記しますので、近日中に読み終える予定の方は、ご注意願います。理学士の奥村は、体調が悪化していてどうもそろそろ寿命が近いらしい、という話しが舞い込みます。奥村は暗い歴史の中で、研究の成果を急ぎすぎ、実験の過程で亡くなってしまったのでした。このような事態の生じる可能性を鑑みて、奥村は民子との交際を遠慮していたという事実が明らかになったのでした。当時よく分からずに、邂逅を逡巡していた、その真相をまのあたりにして、民子は人間の愛おしさに思いいたるのでした。

合縁奇縁 佐々木邦

 今日は、佐々木邦の「合縁奇縁」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「錦子さん」と結婚して養子になったらどうか、という提案をされた「僕」は、随明寺の寺を引き継いでお坊さんになるかどうか、妙に迷いはじめます。その家に嫁いでお坊さんになるのなら「僕」はまちがいなく東京の大学に進学して哲学を学ぶこともできる、と言われる。肝心の「錦子さん」は「僕」と結婚の話があると知ったあとに道ばたですれ違うと「真赤になって立ち止まって、丁寧にお辞儀をして行った。僕はその刹那に決心を固めた」「随明寺へ婿養子に行って、名僧智識になってやろう」と思うのですが、もう一人「僕」のことを支援してくれる「金持の松本さん」が、東大進学の学費を出してくれることになった。するとお坊さんにならずに出世できる可能性も出てきた……。
 

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 ネタバレ注意なので、近日中に読み終える予定の方はご注意願います。
 けっきょく「僕」は随明寺の養子になるのを断ってしまった。「井沢正覚」という幼なじみの青年がこのすぐあとに随明寺の養子になって錦子さんと婚約して大学へ進学することになった。
 そのご「金持の松本さん」も亡くなってしまって「僕」の大学進学の学費も霧消してしまった。
 「僕」は県庁で働きつつ学費を稼いで、帝大を目指すことになった。
 尾崎という友人の妹の「町子さん」と親しくなって「僕」は魅了されるが、けっきょくはこの人とは「お寺の家系の男にはときめかない」と言われてしまって、縁が無かった。しかし亡くなった檀家の松本さんが生前に約束した、帝大への進学の支援、これを実現するために息子の松本くんが仕事をくれて、県庁の給与の数倍の月給をもらい、戦中戦後を経て、けっきょくは東京で豊かに暮らすことになった。紆余曲折があって、幼いころの大学進学の夢は無くなったけれども、仕事も家庭もなんだかうまく進んでいった。友人が計らってくれて縁談もなんとなく纏まっていった。
 これまで、「僕」はお寺に関わり深い家の出身だというのがどうも縁談に亀裂を生んでいたところがあったのですが、けっきょくは、幼なじみも、雇ってくれた縁者も、縁談を持ってきてくれた男も、「僕」の婚約者も、みんなお寺の関係者だったという展開で話しが結ばれるのでした。ああなるほど、けっきょくは合縁奇縁が巡り巡ってお寺にゆきつくのか、というオチでした。