カストリ社事件 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「カストリ社事件」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 カストリというのは粕取焼酎にみせかけた密造酒のことで、この密造酒と同じ時代に存在していた、粗悪紙でつくられた荒唐無稽な雑誌のことをカストリ雑誌といって戦後にいっぱい売られたそうなんですが、こんかいは坂口安吾がこのカストリ雑誌のひどい経営の顛末をえがいています。テキヤで土建業の社長である車組の善八親分から、二十万円を突然もらって、そのお金を一瞬で溶かしたあとに、ひどいことになる……。

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追記  でたらめな展開になんだか笑いが込み上げてくる、東京下町カストリ横丁の漫談物語でした。

幸福 中島敦

 今日は、中島敦の「南島譚 幸福」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは、パラオの、オルワンガル島という島での物語を描きだした小説で、大権力者ルバックと「極めて哀れな」主人公を描きだした物語で、結末がみごとでした。主人公の男が、徐々に幸福を見いだしてゆくさまに迫力がありました。
 

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追記  

※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 なんだか美しい構成の作品で、貧しい男がだんだんたくましい人間に変化してゆくところの描写がすごい創作昔話で、読み終えてから思わずもう一度、はじめから読みはじめてしまいました。寝床で充実した夢を見ることによって、現実の生きかたも充実しはじめてゆく……意識が変われば現実もいずれ変わってゆく、という男を描きだした物語でした。
 オルワンガル島というのは今は海底に没した架空の島で、このような、どんどん幸福になってゆく男というのは、現実には二度と現れなかったのだ、というように末尾に記されていました。考え方が良くなれば、だんだん現実も良くなってゆく……といった寓意のこもった昔話でした。奴隷と王様の入れ替わりを、荘子の「胡蝶の夢」のかたちで物語化した作品でした。

 
 

出奔 伊藤野枝

 今日は、伊藤野枝の「出奔」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 家を捨てて出奔し、貧しい環境に入り込んでしまった登志子は、友人の志保子の家に転がり込んで、そこからどう生きるか惑ってしまいます。困ってしまった登志子を助けてくれる恩師や友人に守られて喜ぶ場面がすてきでした。登志子は、いくつかの手紙を書きながら、この先をどうするか考えているのでした。
 中盤から、なぜ登志子が出奔したのか、その理由がだんだん明らかになってきます……。
 

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追記  

※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 
 登志子のもとに、光郎という男からの手紙が届きます。登志子はこの男との結婚は出来ない、と考えて家を出たのでした。
「登志子自身の気持ちではどうしても結婚したということは考えられない」というように記載されています。
 自分では結婚をしたつもりが無い、しかし強引に結婚させられてしまうという窮状が描きだされています。本文こうです。

  強制された不満な結婚の約を破ることは登志子にとってはいともやさしいことに思えた。そしてなお彼女は修学中であった。共棲するまでには半年の猶予があったので、その間にどうにもなると思っていた。
 
「何でもいい早く上京したい。行ってみんな話してやる、本当のことをみんな話そう、N先生にしろ、光郎にしろ、自分の話はきっと解ってくれるに違いない。東京に行きさえすれば——そうだ、行きさえすればきっと…………」という文章が印象に残りました。
 これは短編なので、ほぼこのまま終わってしまう作品なんですが、東京で盛んに働いて自立し、なにか新しい人間と出会うという未来が見えてくるような、登志子の熱い心情が最後に描きだされる、近代小説の魅力があふれる作品でした。

道 織田作之助

 今日は、織田作之助の「道」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 佐伯という男がずっと陰気に生きていたのにも関わらず、ほんの6年ほどで見ちがえるほど生き生きとした男に変身してしまった。その謎を追う……小説でした。
 

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追記  

※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 道ばたで頽れていた瀕死の犬が、生きようとしてもがいていて、その姿をまのあたりにした時に、生きる気力が湧いてきた、というエピソードが印象に残りました。
 「佐伯」がいぜん住んでいたところは「湿気の多いじめじめした部屋であった。日の射さないせいもあろう。年中敷きっぱなした蒲団をめくると、青い黴がべったりと畳にへばりついていた」というのですが、これではいくら努力しても、不幸が去ることは無いのではと思える酷い環境なのでした。そこから脱してはじめて、仕事や生活が安定したということが書いてある小説でした。環境が人をつくる、というのは現代でもそうなのでは、と思いました。

蛇 森鴎外

 今日は、森鴎外の「蛇」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 貧しい人たちに資金を援助する活動をしていた穂積家の、その息子と結婚をした「お豊」がなぜか、おかしくなってしまった。その謎を追う物語でした。
 

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※ 本作品の一部には、今日的には不適切と考えられる表現が含まれておりますが、作品自体の歴史的な価値を尊重し、原文のまま収録しています。
 
追記  穂積家では食事のさいに、ご近所のちょっといい話しをすることが習慣になっていたのですが、これをどうしてもがまん出来ない「お豊」が嫁入りをして、どうも穂積家は困ってしまいます。

※以下は物語の結末を含みます。クリックで表示されます。

 すべての偽善が嫌いで、とにかく権力が嫌いだ、ということを述べていた「お豊」との交流がむずかしくなって「穂積家は沈黙の家になった」のですが、暗くなった家でやがて義父や義母が亡くなって……「奥さんが線香を上げに、仏壇を覗かれますと、大きな蛇のとぐろを巻いていましたのが、鎌首を上げて、じっと奥さんのお顔を見たそうでございます。きゃっと云って倒れておしまいになりましたが、それから只今のようにおなりになりました」ということで、「お豊」はずっと意味の不明なひとりごとを言いつづけてしまうようになったのでした。蛇はたんに仏壇の隙間が気に入って、居着いてしまうようになっただけなのですが、死者の怨みが蛇を呼びよせてしまったと誤認してしまった「お豊」とその周辺の男たちの物語でした。作中で話されていたように、家庭内で殴ってでも言うことを聞かせようとしたらもっともっと酷いことになったと思うのですが、なにかもっとうまい方法でものごとを進める必要があったように、思いました。
 内容がよく理解できなかった方は、以下の要約版を読み終えてから、あらためて鴎外の全文を通読すると、ほとんど全て理解できると思います。
 
「蛇」要約版  森鴎外
 
 ある夏の夜、私は旅先の家の縁側に座っていた。蚊がうるさく飛んでくる。奥の方から、女の人が早口でずっとしゃべっている声が聞こえる。相手の声は全然聞こえない。一人でしゃべっているようだ。
 そこへこの家のお爺さんが出てきた。私が「あの女の人は誰だね」と聞くと、奉公人のお爺さんは話し始めた。
 この家は昔からの豪農で、今はご主人と奥さんと、お爺さんの三人暮らしだ。先代の奥さん、つまりご主人のお母さんが、先日亡くなった。そのお母さんはとても優しい人だった。ところが、ご主人夫婦はうまくいっていない。
 奥さんは「本当の善人なんていない。善いことをする人はみんな偽善者だ」と言って、家族の話し合いのときに聞く善行の話をひどく嫌った。それ以来、家の中は静かになり、ご主人はだんだん沈んでいった。
 そして、お母さんが亡くなって七日目の夜、奥さんが仏壇をのぞくと、中に大きな蛇がとぐろを巻いていた。奥さんは悲鳴を上げて倒れ、それから気がふれてしまい、毎晩ひとりでしゃべり続けるようになった。
 お爺さんは「蛇は一度外へ捨てても、また戻ってくるのです」と言う。私は「それは不思議なことではない。動物は一度住んだ所に帰る習性があるからだ」と教えてやった。
 そこへご主人が現れて、「私には確固たる信念がない。だから妻を離別もできず、母を寂しい思いで死なせてしまった」と悲しんだ。
 私は「赤ん坊は理性が未発達だから、危ない火でもつかむ。大人と同じ扱いはできない。お豊も同じで、自分の欲望のままに行動すると自分を破滅させる。理性で抑えるべきだ」と話した。
 話が終わった後、私は仏壇に行って蛇を見た。確かに青大将がいた。
「これは私がもらっていく。米蔵から出てきたのだろう。外へ捨てても、また戻ってくる。なんの不思議もない」
 そう言って、私は素手で蛇をつかまえ、かごに入れた。翌朝、私は穂積千足さんに「病気については誰か信頼できる専門家に相談をしたほうが良い」と勧めて、その家を後にした。

(※この要約版は、AIが出力したものを人間が書き換えて、訂正しました。)

月世界跋渉記 江見水蔭

 今日は、江見水蔭の「月世界跋渉記」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ……これは明治時代に発表された、純粋なSF小説で、すこし奇妙な作品でした。月世界での事故と異変と脱出について記したSFです。「空気孔」を発見したために生存と調査が可能になった宇宙の隊員たちが描きだされます。海底探検と月世界探検が合体したような、古風なSF小説でした。

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追記  科学上の間違いが堂々と描いてあって、それを現代の知識で調べてゆけますし、エンタ作品としてもじゅうぶん今よめる小説だなと思いました。
 明治時代に、日本SF小説が実在していたとは衝撃だ、と思う、なんだかレアな作品でした。