恋をしに行く 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「恋をしに行く」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 清楚な雰囲気がありながら妖しい噂があまたにある信子に恋をした、主人公の谷村は、友人の藤子の痛烈な批難を聞き入れつつも、この危険な恋愛に乗りだしてゆく様が描かれます。破綻した男女の人間関係が滔滔と語られてゆく……大時代的な描写に、なんだかまどってしまう恋愛劇の作品でした。
 「悲しい」という言葉が6回ほど記されるのですが、その畳句の置き方になにか独特なリズムを感じる小説でした。前半は大時代的な悲恋の描写にガッカリする小説なんですが、後半に差しかかると坂口安吾の筆致の迫力に魅了される文学作品に思いました。
 

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公園の花と毒蛾 小川未明

 今日は、小川未明の「公園の花と毒蛾」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 これは山の高いところに住んでいる「とこなつの花」が、野原の中でいろんな生きものと対話をする物語です。
 小川未明は、冷気をふくむ霧に凍える花の心情を「毒のある針でちくちく刺されるような痛み」というように描いています。
 花は寒さのためにもう枯れてしまいそうになっていて、高原から出てゆきたいと考えるようになり、仲良くなった小鳥に頼んで、にぎやかな世界へと連れて行ってほしいと頼むのでした。
「どうか、わたしをにぎやかな町の方へ連れていってください。わたしはただ一目なりと明るい、にぎやかな世界を」見たいのだと言うのでした。
 小鳥はこの願い出をいったん断るのですが、花からぜひにと言われてこれに従います。それから美しい町の公園まで運んでもらいます。新しい土地にやっと根づくことの出来た花は、奇妙な男に出会います。
 

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追記  「みすぼらしい男」がやってきて、黒い百合の花を探しながら、ある過去について回想をはじめます。この町では「なんでも欲しいものは、この町に、ないものがなかった」というほど、にぎやかな都会で、ここにサーカスがあって女の軽業師たちがおもしろい技を披露するのでした。その中で、重量挙げ選手のように重いものを積み重ねるという芸をやっていた女性が居て、男はこの人が好きになったのでした。ところがある時に男は、この軽業師が不幸にも身罷ったと聞くのでした。男はこれを悲しみ、あの軽業師の女のことと、そのサーカスの興行があった時期に咲いていた黒い百合の2つのことを思います。軽業師と黒い百合の2つのことをいつも同時に思いだします。
「黒い花は、人間の死骸から、生えた」もので「毒がある」とみんな言うのでした。「みすぼらしい男」は軽業師の生まれ変わりのような黒百合を探しています。
 それから仲良くなったミツバチと別れた「とこなつの花」のところへ、黄色い毒蛾が現れるのでした。
 あまたの人々の死骸の中から生まれたこの毒蛾は、奇妙なことを語ります。「どんなににぎやかな明るい街の火でも暗くすることができます」と毒蛾は告げます。火の中にあまたの蛾が飛びこむことで火を打ち消すのだと、謎めいたことを言うのでした。このあと「都会の火を消すために、蛾が襲ってきた」という、悪夢のような事態が描きだされるのでした。「みすぼらしい男」はこの黒百合と毒蛾の2つに囚われてこれに近づき毒を受け、大病を患ってしまった。
 主人公であった「花」のところにも学者がやってきて研究のためにと、むしり取って行ってしまった……。にぎやかな町で繰り返し起きる悲しいことがらを、小川未明は丁寧な筆致で描きだすのでした。

 

女類 太宰治

 今日は、太宰治の「女類」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 お酒でヘベレケになった作家の笠井氏が現れて、男女のことがらについてひどくまくしたてるという、短編小説でした。wikiに記されている太宰治の頁には、本稿に記されているような、男女間の出来事が記されています。これは虚構の物語で、作家の「笠井氏」が現れて、ひどいことを言って、殴られて地面に這い蹲る場面があるのですが、嘘の中にもなんだか太宰治の心情が、表出しているように思う箇所がありました。これは太宰治が戦後に記した、記憶の中に立ち現れる人々への、追悼の思いが色濃い創作なのではというように思いました。
 

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凡人凡語 梅崎春生

 今日は、梅崎春生の「凡人凡語」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 小説の特徴のひとつに、普通の暮らしの中では言語化されない、不気味なものごとを具体的に書ききってしまうところに、惹きつけられるというのがあると思うんですが、今回はある絵描きの青年が、終戦後の社会で、憎しみを抱いてくる子どものことを書いています。名前も「平和」くんなので、戦後に生まれたことが明らかで、これを戦中に生きていた青年が観察して、彼の心情について事細かに描きだしています。この青年は、精神年齢がかなり幼いのに三十数歳で、仕事も住まいも中途はんぱな状態で、ブラブラしている。食事をしていて、ちりめんじゃこと大根おろしがほんのちょっとだけ眼の中に入ってしまって、痛くも無いのに、病院に行って、眼の治療をしてほしがってしまう。
 このなんだか冴えない青年のことを心配して、赤木医師は彼を釣りに誘ったりするのでした。凡人凡語というよりも奇人奇語というような内容の、妙な語りが印象的な小説でした。
 

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追記  以降はネタバレになりますので、近日中に読み終える予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。話しは横道に逸れに逸れつづけていってぼんやりとした展開をする作品なんです。煙草を売ったり、密造酒を売ったりして暮らしている、近所の森一家のことが、青年によって記されてゆきます。森甚五は貧困と労働の失敗に耐えられず、調子を崩してしまい、入院に至るのでした。病院から逃げ出して、家で騒いだりする。家と家族の看護でも上手く行かないし、病院でも病が治らない、困った状態のまま治らない、森甚五の奇妙な行動が記されてゆきました。
 次に描きだされるのが、彼の子どもである森平和という少年で、彼は友人と一緒に、無名画家の「ぼく」の家の壁にボールをぶつけて遊ぶということをずっとやっている。ボールを壁にぶつけられるたびに、家の中がどしんどしんと揺れるのでした。この平和という名前の幼子はおそらく、無意識に「ぼく」のことを嫌っていて、迷惑なことをしてくるのではないかと、ぼくはひそかに疑っているので、ありました。

牛乳と馬 豊島与志雄

 今日は、豊島与志雄の「牛乳と馬」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 牛乳を買いに行く「私」が見た、奇妙な光景を描きだした近代小説です。橋の欄干で馬が飛び出してきて、これにおどろいて、牛乳瓶をひとつ割ってしまった。小野田という馬主は、牛乳を弁償するといって牧場へ駈けていった……。
 

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追記  小野田はなんでもかんでも、独断で行動してしまう。「私」の散歩道やお仕事も、小野田が勝手に馬で牛乳配達をはじめてしまって、奪われてしまった。小野田は軍人だったころの考え方が抜けないのか「私」や「お姉さま」にたいして無作法なのでした。馬の気配がするだけで、なんだか「お姉さま」はそわそわしてしまって、馬の足音の幻聴を聞くようになってしまう。けっきょく「私」も「お姉さま」も東京に帰ることになって、小野田とは無縁になっていった。軍馬のものたちと「ミルク種族」なるものたち。そういった集団から抜け出すことが難しい現状についての「私」と「お姉さま」の「憤り」について記した小説でした。

青玉の十字架 チェスタートン

 今日は、チェスタートンの「青玉の十字架」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 イギリス探偵小説の妙チェスタートンが描きだす、探偵ヴァランタンと、巨漢の大盗賊フランボーが相まみえる、不思議な奇譚を読んでみました。青玉というのは高価なサファイアの宝石の、ことです。
 

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追記 ここからはネタバレを含みますので、近日中に読み終える予定の方は、先に本文を読むことをお勧めします。これはブラウン神父が探偵小説にはじめて登場する、記念碑的な作品なんだそうです。途中までずっと、この小柄な神父のことは、作中でほとんど取り上げられていなかったのですが、あらゆる人間に変装する大盗賊フランボーの正体をみごとに暴いて、高価な「青い十字架」を盗賊の手から守り切った神父が、その手練の推理と、奇妙な行動の真相を終盤に語り尽くす、起承転結の転結がみごとな小説でした……。いま読むとちょっと古風すぎてあまり驚きを感じられないところもあるのですが、百年前の物語世界を楽しんで読めました。