失敗園 太宰治

 今日は、太宰治の「失敗園」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 太宰治ほど独自性があって唯一無二の近代作家は居ない、戦時中の日本でこんなに正直な小説を書けて戦後にも読まれた人は他に類をみない、と思うんですけど、その独自性の秘訣を調べようとして見てまわっていると、けっこういろんなものをコピー&ペーストしているんです。著作権の概念がまだ確立していない時代ですし。太宰は複製の名手でもあるんです。「走れメロス」は半分以上がシラーの原典通りに記されていますし、今回のは、ジュール・ルナールの「博物誌」という詩集の中にある幾つかの詩を真似ていて、太宰治自身がそのことを作中にちょっと記しています。
 岸田國士が翻訳したルナールの「博物誌」では、蜜蜂や植物たちが話しつづける不思議な詩がありました。木苺はこういうことを言います。
quomark03 - 失敗園 太宰治
  なぜ薔薇には棘があるんだろう。薔薇の花なんて、食べられやしないわquomark end - 失敗園 太宰治
   
 ここから先、小さなささやきを幾重にも積み重ねていっているルナールの詩が展開するんです。林檎の木がおとなりの梨の木に言うことも面白かったです。
 

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群集の人 坂口安吾

 今日は、坂口安吾の「群集の人」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 仕事を退いて「銀座裏のアパアト」に引き越した斑猫という男が登場します。銀座裏という、最初の環境設定がみごとなんだなと思いました。二十世紀前半の銀座裏。大都会なのか田舎なのかよくわからない。映画のセットの裏側に迷い込んだみたいな、空間だったのかもしれないです。
 近代文学の魅力は、文字で異なる時代の都市空間を観察出来る、というところもあると思うんです。詳しい人なら平安時代の住まいの様相を克明にイメージ出来ると思うんですけど、普通はちょっと資料でも無いと分からない。近代なら現代と地続きなので、予備知識が無くてもいきなり読んでみてすんなり認識しやすいと思います。
 中盤から、不思議な夜の徘徊の場面が描かれます。赤い煉瓦の洋館が立ち現れてきたあたりから、妖しい気配が漂い始めます。
 主人公は老いた独身者で……なんだか「コーネルの箱」を連想しました。オチに蛇足みたいな一行があって、このちょっとした後日談みたいなはみ出した感じがなんだが好きだなあと思いました。
 

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サセックスの吸血鬼 コナン・ドイル

 今日は、コナン・ドイルの「サセックスの吸血鬼」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるんですけど、コナンドイルの魅力は、探偵が謎を解いてゆく過程で、まったくの荒唐無稽に思えたことが、現実としっかり地続きであって、ありえないような怪異も事実に繋がりうる、ということを物語の中で巧妙に描ききるところにあると思います。
 善良に見える人がなぜか不気味なことを行ったまま、そのことについて沈黙してしまった。それには理由があって……。つづきは本編をご覧ください。
 ところで「事実は小説よりも奇なり」という言葉は、バイロンの長詩が原典なのだそうです。
 

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※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」によって公開されています。詳細は本文末尾の底本をご覧ください。

ロボットとベッドの重量 直木三十五

 今日は、直木三十五の「ロボットとベッドの重量」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 人工知能は、基本的には紡績機械の出現と同じで、人々の暮らしをどちらかといえば豊かにしてゆくと思うし、そういう実績が多く現れてきているんですけど……。
 直木三十五は、人間そっくりなロボットが工場で働いたり、家で家族の面倒をみたりする、そういう近未来を描きだしています。機械による事故、機械によって実現した大規模な戦争というのを連想しました。労働機械が現れた数百年前に、仕事の無くなることが危惧されたんですけど、じっさいには大岩を手だけで運ぶとか、水を桶だけで運ぶとか、手紙を足だけで運ぶというような仕事が無くなっていっただけで、機械を操作する仕事は増えていったわけで、人工知能でもたぶんそれに似たことが起きるように思われます。煩雑すぎるデスクワークが減って、管理とか観察とか表現をする仕事が増える、ように思います。
 直木三十五は作中に、ただの思いつきのようなセリフとして、こう書いていました。
quomark03 - ロボットとベッドの重量 直木三十五
 「ロボットを政府事業にして、一切の生産は、こいつにやらせるんだね。人間は、だから懐手をしていて、分配だけを受ける。」quomark end - ロボットとベッドの重量 直木三十五
 
 機械が労働のほとんどを受け持って、だれもがベーシックインカムを受け取れるというような、とてつもなく遠い未来のことを直木三十五がちょっと考えていたのかもしれないと思いました。じっさいの二十世紀では、産業機械の発達によって、座ったままで仕事をしていて機械を操作するという仕事につく人たちがとても多くなっていったのだと思いました。
 

0000 - ロボットとベッドの重量 直木三十五

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風呂桶 徳田秋声

 今日は、徳田秋声の「風呂桶」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 自分の冴えない性格のことを内省するときに、老父の姿を思い浮かべるシーンがあるんですけど、ちょっとした仇討ちの場面からさいごの1行までの数ページに、異様な迫力があって、やっぱり百年残る小説は違うなあ、と思いました。滑稽さと深刻さが二重写しになっている場面が、印象深かったです……。
 

0000 - 風呂桶 徳田秋声

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猿 芥川龍之介

 今日は、芥川龍之介の「猿」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 ぼくはこれを今回はじめて読みました。怪談というわけでもないのに、人間を獲物に見立てた恐ろしい心情が書き記されていったり、賽の河原のごとき刑罰が描かれて、芥川龍之介は、悪い考えを明確に描くんです。後半になって広がった風呂敷が畳まれてゆくにしたがい、個人的な倫理性が立ち現れてくるのがすごかったです。作中にすこし記されているんですけど今作はドストエフスキーの諸作がアイディアの源泉にあるようです。
 

0000 - 猿 芥川龍之介

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