細雪(13) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その13を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この物語の主人公である雪子の、顔のシミが体調によって色濃くなることがあるらしいのですが、今回、身体はいたって健康であることが、医院の健康診断で明らかになります。身体さえ健康なら、なにも気にする必要は無いのではと思うのはどうもちがうようで、みんな細細とした気配りをしています。雪子は今から誰と結婚するのかを決める時期なので、いろんな人が繊細な問題を気にしてしまいます。
 この小説の後半部分が書かれた1944年ごろはもう間違いなく日本史史上、最大の行き詰まりの時期だと思うんです。その時期に平和な破談や、人間関係の行き詰まりについてえんえん書くというのが、検閲と世相が最悪だったころに、谷崎潤一郎が選んだ創作なんです。
 ある破綻について世界中が注目しているときに、まったく異なる破綻のことを描いていったのでは、と思いました。平和に生きた人ならだれもがほぼ必ず行きあたる、人間関係の中絶のことが描かれるんですけど、明確な悪意とか明確な元凶があるから破綻するんだろう……と、てきとうに思っていたんですけど、そういう目に見える悪というのは特にないんですよ、今のところ。平和な行き詰まりを見てゆくほうが、じつは重大なんじゃないか、と思いました。
 今回、雪子のフィアンセ候補である瀬越は、数年前に、フランス人女性との恋愛で失敗してしまったらしいです。本文こうです。
quomark03 - 細雪(13) 谷崎潤一郎
 結局その婦人にあざむかれたらしいので、彼がホームシックにかかったのも、純日本趣味にあこがれるようになったのも、その反動であるquomark end - 細雪(13) 谷崎潤一郎
 
 おもしろい過去を持っているんですけど、とくに悪いことを考えている人ではないようです。雪子と瀬越の、この2人はいったいどうなるのか、というところで次回に続きます。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

細雪(12) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その12を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 谷崎潤一郎は伏線や展開の反復がとくべつに上手い作家だと思うんですけど、今回は主人公の雪子が、病弱そうに見えてしまうのでそのことが向こうのお見合いする家族にとって心配に思えてしまうという、問いがあったんです。
 ところがじっさいには雪子はたんに奥ゆかしい性格であるだけで、いたって健康なんです。それを証明するために、ちゃんとお医者さんで健康診断をしておこうという方針になります。
 雪子は美しい容姿をしているので、ちょっとシミがあると妙にみんなが気になってしまうようです。雪子本人もちょっとだけ気になっている。この物語の序盤で出てきた、ビタミン注射のこともまた語られます。
 お見合い相手の女性の、細かなところを見る男たちなんですが、では逆に男のほうに、なにか隠された問題があるのでは……という展開になるようです。
 次回に続きます。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

追記  雪子は繊細なようでいて、芯の強い、あまり動じない人間のように思われます。作者の谷崎こそが当時の戦争の惨禍に動じず、伝統を新たにする生きかたを貫いた作家のように、思います。

細雪(11) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その11を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 いよいよ、物語の本筋である、雪子のお見合いが始まりました。どうなるんだろうと、ちょっと緊張した場面なのかと思ったら、たんに世間話に花を咲かせるような、華やかな二家族の会食がはじまるのでした。会話文が流暢で、読んでいていちいち興味をひかれます。おもに、お酒のみの家族の楽しさみたいなことが記されます。もの静かで理知的な雪子だから、おっとは酒を楽しめる人のほうが和んで良いのでは、というお話しでした。僕は全然お酒が飲めないんですけど、お酒が楽しければそれは良いなあと思います。ちょっと先まであらすじを見てしまったんですけど、これ、おそらくなにかしらの理由で、このお見合いはポシャるんですよ。それなのに明るいし、穏やかに話が進行する。駄目になる事柄というとふつうの現代海外ドラマとかだと、悲惨に悲惨を上塗りするような事態が起き続けるわけですけど、現実や近代文学の場合は、たいてい「かなり上手くことが運んでいたのになあ……意外と進展しなかったなあ」というような、良さそうな条件がいろいろ見えてくるもんなのでは、と思いました。
 

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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

追記   楽そうに楽そうにみえて意外と苦の展開だった、というのが現実をうまく映し出したこの物語の魅力でもあるのでは、と思いました。

細雪(10) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その10を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 貞之助は、この物語に於いて、四姉妹の父の遺志をつぐ大黒柱のはずなんですけれども、ただのお見合いのまえ準備というだけの状態で「離れの書斎に逃げ込んでい」た状態なのでした。男が不在だなあ、というのがこの物語の面白いところで、そういえば谷崎の「卍」でも、これに似た状況はあったなと思いました。今回は、貞之助も協力して、三女の雪子のお見合いへと、出かけることになりました。ただ、急に雨も降ってなんだか運がわるいのかもしれない。美容院の女主人である井谷のとりもちで、瀬越というお見合い相手の男と、ついに対面するのでした。次回に続きます。幸福なはずなのに心労がある、ということが見えてくる小説なのでした。

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細雪(9) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その9を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 この物語の中心人物である雪子の……フィアンセ候補と、紹介人の女性井谷が、次回あたりでやっと現れます。
 ところが、日付の取り決めとか、同伴者の服装の地味さを命じられているとか、女中さんがまだ秘密のはずのことを幼子に漏らしてしまってそれで問題が起きているとか、ちょっとしたところでなんだかものごとがすんなり進まないような気配もあります。
 古式ゆかしい、楚々とした女である雪子のことを、姉の幸子はもう、見た目からして絶賛したくてしょうがない。
 雪子はもうなんどもお見合いをしていてどうも上手くゆかない。こんどこそ本命のフィアンセ候補のはずなので、これは親族もソワソワしている。
 お見合いの問題が親族間で話しあわれていて、こんども縁談が立ち消えになってしまうと、繰り返し準備してきた人たちにいろんな迷惑がかかってしまうことを心配していて、とうの雪子は泣いてしまいます。お見合い寸前なのに、泣きはらした顔では上手くゆくものも上手くゆかない。いったん落ちついて、ものごとが上手く進むように、それぞれ苦慮しているので、ありました。
 読み方としては正しくないんですが、2022年の戦争に日本が直接的に巻きこまれていた場合は、現代日本人は、谷崎が大空襲間近のころに描いたこの物語内部のように、戦争がありながら平和だけに意識を集中して暮らしている人々が、あまたに生じるはずだ……というように思いました。
 

0000 - 細雪(9) 谷崎潤一郎

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
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■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)

細雪(8) 谷崎潤一郎

 今日は、谷崎潤一郎の「細雪」その8を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 今回は、幸子の娘の、悦ちゃんが遊んだり勉強したりしている場面がありました。
 作中で悦ちゃんがなにげなくこう言うんです。
「見たらいかんよ」
 自分の勉強のノートがまだ未完成なので完成前に見られるのが恥ずかしい、というだけのことでたいしたことを言ってないんですけど、妙に印象に残りました。
「隣家、と云うよりは背中合せの庭つづきになっている家に、半年ほど前からシュトルツと云うドイツ人の一家が移って来て住んでいた。」そこで子ども同士で仲良くなった。犬や兎を飼っていたり、のどかな描写でした。戦争開始前には、イギリス人やアメリカ人も日本に住んでいたんだろうなあと思いました。
 

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「細雪」の上中下巻、全巻を読む。(原稿用紙換算1683枚)
谷崎潤一郎『卍』を全文読む。 『陰翳礼賛』を読む。

■登場人物
蒔岡4姉妹 鶴子(長女)・幸子(娘は悦ちゃん)・雪子(きやんちゃん)・妙子(こいさん)