悟浄出世 中島敦

 今日は、中島敦の「悟浄出世」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
『山月記』で有名な中島敦が、妖怪の沙悟浄を描いた小説です。なぜ人食いの妖仙である沙悟浄が三蔵法師の弟子になったのか、その前日譚のところが描かれています。
 悟浄は「九人の僧侶そうりょった罰で、それら九人の骸顱しゃれこうべが自分のくび周囲まわりについて離れな」くなり、悩みが高じて、哲学的な疑問を抱くようになった。妖怪でしかない沙悟浄が、この悩みを解決するために、黒卵道人こくらんどうじんや、沙虹隠士といった導師のもとを訪ね、死と苦と哲学についての教えを得るのでした。
 西洋でいうところのディオゲネスの思想にも似た不思議な議論と、師を求む旅が展開するのでした。妖怪から修行者へと転じてゆくさまが長々と記され、ついに三蔵法師に出会うのでした。本文こうです。「悟浄ごじょうは、はたして、大唐だいとう玄奘法師げんじょうほうし値遇ちぐうし奉り、その力で、水から出て人間となりかわることができた。そうして、勇敢にして天真爛漫てんしんらんまん聖天大聖せいてんたいせい孫悟空そんごくうや、怠惰たいだな楽天家、天蓬元帥てんぽうげんすい猪悟能ちょごのうとともに、新しい遍歴へんれきの途に上ることとなった。」
 冒険譚と哲学書が混交したような、なんだかすてきな本でした。
  

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