今日は、泉鏡花の「黒壁」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
泉鏡花と言えば幽寂な日本画の世界に、母や妻への思慕と恋情を描きだす、雅な作家だと思うんですが、今回のは始まりから終わりまで怪談のみを書き記していました。
金沢の黒壁山の深夜二時ごろ「丑の時詣」をする妖しい女たちがいる。五寸釘が打ちつけられて穴だらけとなった木木が闇夜の中に浮かびあがるさまが描写されます。この黒壁山に、一人の女が現れます。
霜威の凜冽たる冬の夜に、見る目も寒く水を浴びしと覚しくて、真白の単衣は濡紙を貼りたる如く、よれよれに手足に絡いて、全身の肉附は顕然に透きて見えぬ。霑いたる緑の黒髪は颯と乱れて、背と胸とに振分けたり。
これが主人公の「予」の親友である美少年を、呪いつづける女であることが中盤で明らかになります。「渠」は放蕩の末に家を追い出されていて困っていた。その時に現れた女が「お艶」なんです。渠は「豪商の寡婦に思われて、その家に入浸り、不義の快楽を貪りしが、」四ヶ月もするとこの不義が祟って渠は衰弱してしまって「お艶」から逃げ出してしまった。「お艶」はこの愛別離苦が耐えられず……続きは本文をご覧ください。
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追記 さいごに予は「お艶」の渾身の「丑の時詣」を目撃してしまいます。「カチンと響く鉄槌の音は、鼓膜を劈て予が腸を貫けり」と泉鏡花は記します。ここから、呪詛に冒された二人の男女がどうなるのか…… というところで、結末が記されないままこの小説は幕を閉じるのでした。