きりぎりす 太宰治

 今日は、太宰治の「きりぎりす」を公開します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 「おわかれいたします」という妻からの言葉ではじまる独白のような小説です。伴侶と別れる……となると学校を卒業してもうずっと会えなくなるとか、ふるさとを離れて都会に出るのだとか、恋人と別れることになってしまって悲しいとか、いうこと以上の厳しい事態なわけですけれども、太宰治はそこで、人間性の激しい否定というようなことをちっとも記さずに、幽かな小言のように、柔らかく書き記してゆくんです。なぜ近代の女性性というのをここまで確実に書けるんだろうかと、読んでみて衝撃を受けました。なんともみごとな小説で……事実から遠く離れない描写をすることによって、迫力が出ているように思うんです。どこにでもありそうなことを積み重ねて書いているんです。100年経ってもありえそうな、大陸の片隅でも愛読されそうな、素朴なことだけを書いています。ほんとうにちょっとした、ごく静かな小言のように見える範囲で、重大なことを言っているんです。聞こえないほど小さな声を記すのが文学なんだ、と思いました。終盤の一文が印象に残りました。本文こうです。
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  この小さい、かすかな声を一生忘れずに、背骨にしまって生きて行こうと思いました。quomark end - きりぎりす 太宰治
  

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