筧の話 梶井基次郎

 今日は、梶井基次郎の「筧の話」を配信します。縦書き表示で、全文読めますよ。
 梶井基次郎は「檸檬」がおすすめなんです。今回も代表作と似た構成で、「私」が散歩をしていて、その風景画を記しているんです。
 筧というのは、地べたより高いところにかけられた古い水道のことです。とにかく描写が静謐で、美しい風景が描かれます。本文こうです。
quomark03 - 筧の話 梶井基次郎
  香もなく花も貧しいのぎらんがそのところどころに生えているばかりで、杉の根方はどこも暗く湿っぽかった。そして筧といえばやはりあたりと一帯の古び朽ちたものをその間に横たえている……quomark end - 筧の話 梶井基次郎
 
 この描写で終わらずに、自己の感覚を描きだします。「澄みとおった水音にしばらく耳を傾けていると、聴覚と視覚との統一はすぐばらばらになってしまって、変な錯誤の感じとともに、いぶかしい魅惑が私の心を充たして来る」
 見えない水音が「私」を果てしなく魅了してゆく、そのあと筧から水が涸れ果てて、麻薬の切れた患者のように「暗鬱な」「絶望」にひたってゆく「私」が描きだされます。グレン・グールドの「フーガの技法」の演奏を彷彿とさせるような、蠱惑的な小説でした。
  

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